「遠く離れた空の下」第2章 – 第5話【宇月の判断】

会議室 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

大手からベンチャー企業へ転職し成功を収めるもその企業が買収されたことで新たなキャリアを模索する大和。次に大和が選んだのは欧州の中堅企業アーセン社であった。堅実経営と人を大切にする経営で中堅ながら業界で確固たる地位を確立しているアーセン社であったが日本支社の新製品事業部は社内政治が横行し激しい権力争いが繰り広げられているのであった。そのような中ではあったが期待の新製品「キボウ」の発売が近づきいよいよ社内ではキボウ製品担当者が決定されようとしていた。大和はキボウ製品担当の座をかけてもっとも信頼する黒馬と戦うことになる。

製品企画

ホワイトボード

製品企画は社内の花形部門である。

メーカーである業界には大きく2つの部門が存在する。研究開発・製造・生産部門と企画・販売・営業部門だ。

製品企画の仕事は主に宣伝戦略の策定である。その過程で代理店をマネージしマスコミ対策をたてインフルエンサー対策を立案・指揮する。また外資系においては世界共通のブランディングを維持し一貫性を保つため英語で本国の上層部と会議を行う。

海外出張もあり英語でさっそうと仕事をする様に憧れる社員も多く華やかな部門で人気が高くそのぶん競争も激しいのが製品企画部門である。

製品企画の中でもどのような製品を担当することができるのかで製品企画担当者の社内での発言力は大きく左右される。

大和がクラフト社で担当した製品はライフサイクルの終焉にあり売り上げ規模は比較的高いもののそれ以上の投資は期待できず注目度が高い製品ではなかった。

そのため転職したモゾパスで担当した「ダラX」は一方で売り上げ規模は小さいものの利益率が高く社内でも注目される製品であったため大和は社内で一定の発言力を有することができた。

アーセン社にとって、そして新製品事業部にとって「キボウ」は価値が高い製品でありその製品企画担当者は誰もが憧れるポジションであった。

役員会議

会議室

会社によってポジションを獲得するための方法は異なっている。アーセン社の場合ポジションを獲得するための公式なプロセスは存在していなかった。

候補者たちは定例の会議に参加しアッパーマネジャーとのディスカッションに臨む。その過程で最初は5名くらいいたキボウ製品企画担当希望者の数が一人ずつ減っていった。会議での質疑応答で専門性や戦略的思考を評価され少しづつ候補者が絞られていくのである。

最後に残ったのは大和と黒馬の二人であった。

後で考えれば選考において重要な会議は2つであった。

その一つが社長も参加する「役員会議」であった。

ここで新製品事業部は「キボウ」発売プランに関してプレゼンを行うことになった。

宇月の判断で宇月、黒馬、大和の3名でプレゼンを行うことになった。

まず宇月が「マーケットの状況とプランの概略」を話し、その後黒馬が「宣伝戦略」を大和が「必要経費と人員配置プラン」をプレゼンすることになった。

宇月の判断は大和にとっては不利なものであった。

「宣伝戦略」は製品の可能性を語る華やかなプレゼンであり誰もが聞いて夢を感じる話である。一方で必要経費や人員配置プランは現実的で実務的な話に終始する必要があり地味で華やかさにはかけるのである。そして大和は宣伝戦略を得意としていたのこともあり宇月の判断に憤りを感じずにいられなかった。

判断基準

メニュー

宇月のプレゼンプランを聞きながら大和は黒馬の言葉を思い出していた。

「大和さん。気をつけた方がいいですよ。宇月さんが大和さんが何か企んでいるのではないかと疑っていますよ。」

宇月は毎週のように飲み会を開催した。飲み会は宇月とその取り巻きが毎回参加する。この飲み会に参加することが宇月への忠誠を示す暗黙のルールのようであった。

大和も入社当時は仕方なく毎回この飲み会に参加した。

しかし飲み会は実にくだらない会話に終始するのであった。

対立する田中派閥の悪口からはじまり、対抗派閥メンバーそれぞれの誹謗中傷、そしてどうやって田中派閥を引き下ろすかで盛り上がり、終盤は宇月の自慢話に終始した。

自慢話の内容は浅はかで奥行きもなく大和は最初の2か月くらいは我慢したがそれ以降はその場に身を置くことが苦痛でしかなくやがて飲み会に参加しなくなった。

それでも最初は誘われていたがそのうち誘われることもなくなった。

「今からでも飲み会に復帰した方がいいですよ。私がつなぎますから。」と黒馬は気を使ってくれたが大和はむしろ誘われなくなってホッとしていたくらいであった。

大和は30代後半で気力も体力も満ちていたし自身の専門性にも自信をもっていた。傲慢で自信過剰な人間だと評価されることもあったが大和は意に介していなかった。むしろそのような評価を与える人間は自分に自信がないからそんな評価を大和に与えるのだとすら考えていた。

「こんなことでプレゼンをきめるんだな。」

この瞬間大和の宇月に対する考え方は確立した。

「尊敬できない。」

(つづく)

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