「遠く離れた空の下」第2章 – 第7話【白いカラス】

カラス ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

大きな希望と自身をもって入社したヨーロッパの業界中堅企業アーセン社。質実剛健で人に優しい企業との本国での評判とは裏腹にアーセン社日本支社新製品事業部は事業部長・宇月が率いる派閥と元イルーゾ社・田中が率いる派閥の激しい政治争いの中にあった。最初は宇月派閥に巻き込まれる大和であったが次第に下らない派閥争いから距離を置くことで社内で疎外感を感じ始める。その中で行われた新製品「キボウ」製品担当者を決める争いが繰り広げられる。大和と大和が信頼を置く先輩社員の黒馬は役員会議でのプレゼンに臨む。大和にとって不利な状況のプレゼンであったが社長のクロースが名指しで称賛を与えたのは大和であった。

バタフライとの面談

空港

社長クロースからの称賛を受けた大和は社内で「キボウ」担当者の最右翼と目されるようになった。関係部署の社員の中には大和就任後の関係をいち早くつくるために挨拶に訪れる者さえいた。

しかし大和の辞令は役員会議が終わってしばらくしても発出されることはなかった。

役員会議から約1ヵ月、アーセン社本国にてビジネス会議が開催された。世界の主要国であるドイツ、フランス、UK、スペイン、イタリアといういわゆるEU 5とUS、日本の新製品事業部のビジネスリーダーが一同に介し新製品「キボウ」の発売プランをディスカッションするための会議であった。

この会議に日本から事業部長の宇月、そして黒馬と大和が参加することになった。

日本からのプレゼンも行われ役員会議同様の振り分けにて日本のプランをプレゼンすることになった。

会議はヨーロッパの主要ハブ空港である「ルフトール空港」の空港ターミナルにあるホテルで開催された。

成田空港からルフトール空港へ直行便で向かい空港のホテルで会議、ルフトール空港からは一歩も外に出ずに帰国するというハードな会議であったが大和にとってはアーセン社での初国際会議ということもあり期待に胸を膨らませるのであった。

会議は3日間かけて行われ、初日の夜に立食でのディナーが開催された。

その場で「グローバル新製品部門責任者」であるバタフライとはじめて挨拶を交わした。バタフライは少し神経質な雰囲気を感じさせる長身の男であった。大和が自分の名前を述べると「明日話したい事がある。秘書から会議を設定して連絡する。」とバタフライは言った。

翌日の夕方大和はホテルの会議室でバタフライと面談を実施した。

面談の内容は大和やバタフライの自己紹介からはじまり大和の経歴や日本での「キボウ」に対する顧客の期待値などを質問された。

約1時間の面談のあとバタフライと握手をした。その握力の強さに驚く大和。

「今日の面談のことは他の日本メンバーには黙っておいていい。」と最後バタフライは付け加えた。

実際に大和は面談のことを上司である宇月には黙っておくことにした。もし話をすると何か邪魔をされるかもしれないと感じたのだ。

大和は宇月を信用することはできなかった。

白いカラス

カラス

会議最終日、3日目の夜に宇月、黒馬と大和はホテルのバーでささやかながら出張の打ち上げを行った。ホテルのバーは早朝便に乗る人たちが夜通し時間をここで費やすためか混雑しており3人はカウンターに座って乾杯した。

黒馬がトイレのために離席すると宇月が話はじめた。

「大和、お前は間違ってる。お前は確かに優秀かもしれん。せやけど俺は絶対にお前を認めへん。」

何かを言いかけたが口を閉ざし宇月の続く言葉を待った。

「上司がおってそこにカラスがおったとする。そのカラスのことを上司が、あれは白いカラスやなぁと言ったらお前は、いいえカラスは黒いに決まってます、というやろ。しかしやなぁ、この世の中では上司がカラスは白いと言ったらそれは白いカラスなんや。わかるか。お前はそれが出来ひん。せやから俺はお前を認めへん。」

確かに俺はカラスは黒いと言うだろう。

それも半分馬鹿にした笑いを浮かべてそういうかもしれない。

しかし、

それは全員に対してそうではない。

もしも尊敬する人やその領域の権威がカラスが白いと言ったなら「白いカラス」を信じたかもしれない。

「白いカラス」はそういう意味では実在するかもしれないし、でもそれはいつも「白いカラス」であるわけでもなければカラスは黒いと言い切れないのかもしれない。

俺も「白いカラス」を見ること・信じることが出来る人と仕事がしたかった。

実際には大和は何と返答していいかわからなかった。

「せやからお前はダメなんや。」

黙っている大和に宇月は半ば呆れながら再度つぶやいた。

「どうしたんですか?」

黒馬が席に戻り宇月との会話はそこで終わった。

カラスが黒いと知っていてもわざわざ「いいえ、カラスは黒いです。(そんなことも知らないのですか)」と言う必要は絶対にないのだ。

それを大和も心ではわかっている。

しかし大和はわかっていても「カラスが白い」ということが出来なかった。そうしていつも大和はいらぬ対立を呼び込むのであった。

帰国してすぐに辞令が発表された。

「キボウ」担当者に就任したのは大和であった。

(つづく)

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