「遠く離れた空の下」第2章 – 第15話【代役】

機械 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です

アーセン社に入社した大和は事業部にはびこる熾烈な派閥争いを目の当たりにする。派閥争いを嫌い事業部長・宇月と距離を置く大和は危険視され妨害を受けるものの、新製品事業部の期待の新製品「キボウ」の製品企画担当者に抜擢される。一方で大和の発言力が増すことを嫌った宇月の策略で大和は部長のポジションを得ることが出来ないでいた。それでも「キボウ」発売のために邁進する大和は社長クロースの命を受けUSチームへ参画。帰国後「キボウ」発売プランにアップデートとそれによって必要な経費とチームを作ることの承認取得に成功。晴れてチーム「キボウ」が設立される。直後、宇月の対立派閥の長・田中からの誘いを受け田中派閥メンバーとの飲み会に参加した大和に田中から忠告を受けるのであった。

初期の「キボウ」製品企画担当者候補

機械

田中の忠告が始まるとすぐに会話は大曲にスイッチされた。大曲は大和と同年代で期待の中堅社員の一人と社内で目されていた。

「大和さん、私を採用したのは誰だと思いますか。宇月が私を採用したのです。」

大和は驚きを隠せなかった。なぜなら宇月とその派閥はいつも田中だけでなく大曲を攻撃していた。特に大曲への攻撃は激しく、当初大和は宇月たちの飲み会に参加していたころはいつも飲み会では大曲の名前が話題にのぼり公私両面で大曲の批判が繰り広げられた。大和の目から見て大曲と宇月にそのような過去があるとは想像もしていなかった。

確かに大曲は大和と同じく領域の専門性を持っていた。製品企画担当者ではなく営業組織に所属していた大曲であったがその論理的な話し方は製品企画担当者としての可能性を感じさせるに十分であった。

「宇月は私にキボウを任せた。そう言ったんです。それで私はアーセン社に入社したのです。」

大曲の話によると、新製品事業部立ち上げ時(まだ大和はモゾパスで「ダラX」の販路拡大に邁進している頃になる)採用面接を行った中でもっとも専門性に長けた大曲が製品企画担当者候補筆頭として入社し発売準備までの時間で製品企画の業務を学ぶプランであったらしい。

「ではなぜ?」

なぜ宇月と大曲は対立関係になったのだろうか。

その背景は今大和が見ている世界と似ていた。

決定的に仕事をしない・センスを感じない宇月に次第に大曲は嫌気がさしてきた。一方で宇月の取り巻きはそんな宇月を担ぐ事で自分たちの利益が得られる事を知っていて誰もが宇月の言いなりであった。

ここからは大和とは違うのだが、

大曲はこの状況に我慢がならず宇月が事業部長には相応しくない理由をまとめたレポートを取締役会に提出しようとした。その窓口となったのが田中であり、実際レポートが提出される直前までは順調に進んでいた。

しかし田中と大曲にも慢心があったのであろう。詳細は田中も大曲も話はしないのだが、何らかの理由でこのレポートが提出される直前に宇月はレポートの存在に気づき、先手を打って大曲の出張費や交際費を派閥のメンバーに調査させ不審な点を逆に人事や経理にレポート。(この話もこの場で田中や大曲から聞くことはなかったがのちに大和が知ることになった情報である。)その結果大曲は異動を余儀なくされ田中のいる部署へ「飛ばされた」のであった。

「宇月が大曲を飛ばそうとしたから私が部門で引き取ったのです。」

田中のコメントはそれだけであった。

代役

ピンチヒッター

大和はゾッとした。もしかしたら大曲ではなく大和がそうなっていたのかもしれない。そして大曲には同情の念を抱くのであった。

大曲が異動した事で代役が必要となった。宇月は再度ヘッドハンターをつかって業界から候補者を探した。

「黒馬はそれで入社したのです。私の代役として。」

大曲は言った。

「黒馬は宇月には従順です。宇月も黒馬に全幅の信頼を寄せていました。」

ところが宇月にも誤算があった。それは黒馬の英語力である。

黒馬も英語を使う事が出来たがそれはビジネスでは最低限のレベルでありそこが問題視された。

「黒馬にもライバルがいて競争があった方がヘルシーだろ。」という社長クロースの言葉によって白羽の矢が立ったのが大和だったという事であった。

「黒馬の最終面接は宇月でした。大和さんは最終面接クロースだったのでしょ。そういう事です。クロース社長が絡んでいたのです。」

大和はクロースへの感謝の思いを新たにし、そしてクロースが本国へ帰任する事を大変残念に思うのであった。

「あまりこういう話を聞くのは面白くないかもしれませんが大和さん。宇月がキボウ担当として推していたのは最初から最後まで黒馬だったのです。」

大和に驚きもなければ落胆も怒りもなかった。なぜなら十分想定していたこと、ただ、その仮説が正しいと検証されただけであったからである。

(つづく)

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