ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
新製品「キボウ」の成功により新製品事業部は忙しいながら皆平穏な日々を過ごしていた。宇月は悲願であった役員に就任し宇月の権力は絶対的になるかと思われたが社長・今山が引き抜いた梨田の入社で事業部は大きな変化を見せ始める。宇月は相談役となり実質的な引退を勧告され宇月の後任として事業部長に就任した梨田がすべての権力を手にした。梨田は支店を周り営業職に就く社員に「顧客のために正しい事をしろ。」と説く。一方で「顧客のために仕事していない奴はいないか。正しい行いをしていないものはいないか。」と独自のインタビューを展開し宇月派閥のメンバーたちに対する苦情を収集する。そのやり方に反発する宇月派閥のメンバーであったが宇月という強力なリーダーを失った派閥は弱く梨田の攻撃を防ぐ事が難しくなってくるのであった。
そこまでやる必要があるのだろうか

顧客のために仕事をしていない。自分のために仕事している。正しい事をやっていない。
として梨田から最初の攻撃の対象となったのは2人の営業部長であった。
営業部員から様々な証言を集めてはこの2人の営業部長たちと面談を繰り返し攻め立てた。
彼らが愚痴を漏らす事が多くなり、派閥に属していない大和の前でまで愚痴る事が多くなってきた。彼らが言うにはほとんどはいわれもない事でありあからさまに悪意を感じるとの事であった。
梨田の指摘の内容は仕事の内容だけではなく、飛行機での移動中仕事をしていない、出張先を朝食の旨いホテルで選んでいるなど何とも稚拙なものであった。
「出張先の朝食がおいしかったと部下に話しただけなのに。そして出張の機内で仕事をしないなら勤務時間から移動時間を引けと言われたんですよ。」
一人の部長は大和に愚痴るのであった。
”このやり方はあまりにもフェアではない。”
大和は梨田の事を危ない人物だと認識するようになった。
もちろん派閥も対抗しようともがいていた。
逆に梨田の悪評を集めようとしていたし、梨田の不自然な出張が明るみになることもあったのだがそれはもみ消された。梨田は社長・今山の信頼を得ていたし、人事は今山に忖度し梨田側につき梨田を追求することはなく徹底して2人の営業部長を攻め続けた。
営業部長たちは攻撃になすすべもなくやがて部長から課長へ降格させられた。
さすがにかわいそうだと大和も思った。
それでも梨田は彼らを攻撃し続けた。
そして彼らは課長から営業担当者まで降格させられた。2段階降格はアーセン社では社内規定違反でも犯さない限り前例のない事であった。そしてこの2人の営業部長の降格からすぐに宇月派閥に所属していた課長たちも次々と降格させられた。その後任には梨田がバルゼから連れてきたメンバーが就任した。
営業組織はあっという間に宇月の派閥から梨田の派閥へ塗り替えられてしまったのである。
大和さんしかいないのです

少し話は戻って新製品事業部立ち上げの頃の話となる。
「キボウ」発売の目途がたったため当初約100名規模の営業職を採用する事になった。宇月は自身の派閥を強固なものとするために宇月が在籍したガラム社から多くの営業職メンバーを引き抜いた。宇月についてきたメンバーは軒並みアーセンでポジションを上げ、ガラムで営業課長をしていた2名が部長となった。(梨田に2段階降格に追い込まれた2名である。)そして非管理職であった営業職メンバーもアーセンに入って営業課長として管理職に昇格した。一般職である営業メンバーもガラムで固めたかったであろう宇月であったが流石にそこまで引き抜く事は難しい。
アーセン営業職の第一勢力は宇月派の元ガラム社社員であるが第二勢力は元バルゼ社社員であった。つまり梨田のいたバルゼから最初の組織立ち上げ時にアーセンにやってきたのである。それはなぜか。バルゼ時代の梨田に反発するグループメンバーが梨田と対立し逃げるようにアーセンにやってきたのである。しかしながらアーセンに入ってみると元ガラム社員が幅を利かせている。それでもいつかは宇月がいなくなるだろうと期待していた彼らは梨田がやってきた事で非常に危ない立場に追いやられる事になった。梨田から逃げたつもりが梨田とまた働く事になってしまったのである。
そして第三の勢力は元クラフト社社員であった。彼らは大和が声をかけて連れてきたメンバーであった。(アーセンがこんなひどい状況とは知らずに声をかけてしまった事を大和は後悔していた)。
彼らを集めるとかなり大きな勢力となる。そして彼らは大和に頻繁に連絡するようになった。
「大和さんしかいないのです。」
彼らはそう言うのだった。
「宇月も梨田も両方私利私欲にまみれた俗物です。大和さんが立ち上がってください。」
大和は自身の派閥など作るつもりはなかった。ただ「キボウ」のさらなる成功を目指していたし、自分の実力で出世を勝ち取る自信があった。
大和にその気はなかったが傍から見るとどう見えていたのだろうか。それは大和の派閥と勘違いされていたのかもしれなかった。
(つづく)



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