ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
黒馬の元結成されたキボウサポートチームは大和やチームキボウを脅かす可能性があった。大和は梨田の圧力を感じながらも両チームの役割分担を明確にすることに努めチームキボウに有利な条件でその役割分担を決定した。すべて問題ないと考えていた大和だが黒馬は日の当たらない営業部員たちを味方につけて大和が顧客のために働いていないという噂を増幅させるのであった。
衝突

その日大和は通常業務を終えてから品川から新幹線で京都へ向かった。翌朝からの京都での会議に参加する必要があり遅くはなるが前日のうちに京都に入ることを決めていた。
京都を訪問するのは久しぶりであった。思えばモゾパス社時代は京都の大学の研究室に密に訪れたものであった。あれからあっと言う間に3年ほどの月日が経っていた。
梨田から電話がかかってきたのは京都駅まであと30分ほどで到着いうタイミングだった。大和は電話に出たのが新幹線は電波が悪くほとんど会話にならなかった。
京都駅について新幹線中央口を出てすぐで大和は梨田に電話をした。夜遅い時間にいったい何なのだろうかと少し気になりながら電話をかけた。
梨田はなかなか電話には出なかったがコールを続けるとやがて電話に出た。背後に人が大声で談笑する声が聞こえる。どこかで飲んでいたのかもしれない。
梨田は電話に出た瞬間から不機嫌であった。
「大和、お前はどこにいるんだ。なんで例の資料を出していないんだ。会議は明日だぞ。」
なかば怒鳴るように梨田はまくしたてた。
それは梨田の勘違いであった。大和は既に資料をとっくに提出していた。先週には既に提出した事を伝えた。
「わかった。今からメール調べるからまた電話する。」
と梨田は言い残して電話をきった。
地下鉄に乗って移動したかったがまた電波が悪く会話が成り立たないのも嫌なので新幹線中央口を出たところでしばらく電話を待った。何分待ったのだろう。10分以上はたったと思うが梨田から電話がかかってきた。
「確かにお前のいうとおり資料は遅られていた。」
「よかったです。」
大和は安心した。
しかし梨田はこう続けた。
「大和、お前顧客である俺を軽く見ているだろう。」
”何を言い出したんだ。”
大和は驚きを隠せなかった。
「俺にはわかる。お前は俺を見下しているし大切に扱っていない。」
梨田は怒鳴るようにつづけた。
「営業もみな言っているぞ。大和、お前は顧客のために働いていない。正しい事をしていない。」
言い返そうとも思ったが何かを言うのを大和はやめた。どうせ言っても梨田とは分かり合えないと思ったからである。
「お前は本国からの評価が高い事でいい気になっているだろう。お前は本国ばかり見て仕事をしていて顧客を見ていない。お前の顧客はお客さんだけではないぞ。俺も顧客だし黒馬や営業も顧客だ。お前は顧客のためにまったく仕事をしていない。」
梨田の使う”顧客のため”は詭弁の極みのような言葉であった。大和は言いたい事がたくさんあった。
”顧客のためって一体何なんだ。それにその言葉は便利だろうな、人を攻撃するに便利な言葉だ。その反対、お前は顧客のために働いていないと言えばそれで相手は悪者になってしまうわけだ。なんて下らない言葉なんだ。そもそも梨田、お前は顧客のために働いているのか。俺にはそうは思えない。そしてお前の理論が正しいのだとすれば俺やチームキボウはお前の顧客だ。そして宇月派閥メンバーだって顧客のはずだ。お前は宇月派閥メンバーを降格に追いやり、退職にまで追い込んだメンバーもいる。それがお前の言う正しい行いなのか。”
あなたは顧客のために働いているのか。この言葉を大和はいいかけたが思いとどまった。こんな事を言っても何のためにもならない。大和はただ黙っていた。
梨田は再度言った。
「俺はお前を認めない。」
そう一方的にまくしたてて梨田は電話を切った。
別に梨田に認めて欲しいとはこれぽっちも思っていなかった。尊敬できない人間に認めてもらう必要などないと考えていた。
大和は自信があった。
”アーセン社にとって俺がいないと困るはずだ。俺にしかできない事がある。黒馬にそれをやらしてみるがいい。きっと出来ないはずだ。”
そして大和は覚悟した。
今梨田との最終決戦に突入したのだと。
目の前には京都タワーを見る事が出来た。思えば京都タワーをこの日ほどしっかりと意識してみたことはなかった。いつも京都にあるタワーだが凝視した事はなかった。
大和は京都タワーを見つめながら思った。
”もう梨田を追いやるか俺が辞めるかどちらしかない闘いだな。”
(つづく)



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