ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
新製品「キボウ」の成功ですべては順調にいく予定であった。ところが宇月の後任として事業部長に就いた梨田は営業部門の刷新の後に黒馬と組んで大和やチームキボウに対しキボウサポートチームを立ち上げ大和やチームキボウの価値を下げにかかってきた。顧客管理すべてを担当するという黒馬の提案を却下した大和はチームキボウと共にこれまで通り社内の業務と共にトップインフルエンサー管理を遂行し社内での位置を確固たるものにしていったであった。
問題なし

チームキボウとサポートチームの役割分担を決めてからしばらく大きな衝突や混乱はなく時が過ぎた。
黒馬は会議でキボウに関して発言する事が多くなったが、その発言は的外れな事も多く大和はその発言を対して気にしてはいなかった。
大和は本国や社内のステークホルダーとの調整で忙しかったしサポートチームが何をしていようと関係ないと考えていた。
製品企画担当業務において主要な業務である販売目標作成や戦略立案、そしてトップインフルエンサーの管理は引き続いてチームキボウが担当している。
”問題はない。”
と考えていた。
しかし大和は黒馬の思惑をこの時見落としていたのであった。
他責

アーセン新製品事業部には約120名もの営業部員がいた。その中でトップインフルエンサーを担当するのはわずか10名程度、多く見積もっても20名はいなかった。彼ら彼女たちはトップインフルエンサーを担当出来るほど優秀であったし社内で高く評価されているメンバーであった。彼らの中から数名は将来本社に抜擢されるだろうし営業に残るものも多くは将来営業管理職としてチームを率いる事を期待されていた。彼らは概して人間的にも成熟していた。
大和をはじめチームキボウメンバーは彼らとはトップインフルエンサーに関する業務を通じて関わりが強く信頼関係があった。
一方で120名も営業部員がいると大和には顔を見ても名前がわからないメンバーもいた。彼らは地方担当していたり営業管理職になれないまま一営業員として営業職に甘んじているものもいた。
大和は自身が営業職を務めていたことがあるので知っていた。こういうメンバーこそ他責性が強いのだ。自身の努力するのではなく問題が起こるとそれをすぐ人のせいにするのである。もしくはその対象は本社に向けられた。
大和はキボウ製品企画担当の責任者として全体会議などで何百人の前でプレゼンする事もあり多くの人が大和の事を知っていた。
「偉そうだ。」「いい気になっている。」
そういった声が大和に向けられることがある事も理解はしていた。
クルフト社で製品企画担当に初めて就いた時、もう10年くらい前になるだろうか、その時はこのような言葉に大和は心を痛めた。
当時大和をかわいがってくれた先輩社員からはこういって慰められた。
「大和、お前は有名人で目立つ存在だ。だから陰口叩かれるのも仕方ない。有名税だと思ってあきらめろ。」
そう言われて大和は気が軽くなった。
アーセンでも陰口をたたかれているだろう事は知っていたが気にしないようにしていた。
それが黒馬の思惑を看過してしまう原因となってしまったのである。
黒馬は毎週のように出張を繰り返し地方を周り営業部員と飲んでまわった。そして営業をサポートしながら黒馬の味方をつくっていったのである。
しばらくして梨田を嫌う営業部員からこのような黒馬の行動が大和へ連絡が入った。彼によると黒馬の行動は徹底しており他責性が強そうな面倒なメンバーをサポートしては味方につけようとしているとのことであった。
そして「大和やチームキボウは顧客のために働いていない。正しい行いをしていない。」という声を増幅させていった。
大和がこの黒馬の動きに気づいた時には既に大和に対してアンチな勢力が大きくなってしまっていた。
そしてそのやり口はそっくり梨田が宇月派閥へ行ったことと一緒であった。
”面倒な事になったな。”
大和は思ったが一方で自信もあった。
”とは言っても俺にしかできない事もある。会社も俺がいなくなるのは困るだろう。それに本国も味方だ。”
事実、販売目標作成はかなり時間と手間のかかる業務である。「キボウ」発売前から精緻な予測モデルを構築したのは大和であり、このモデルのメンテナンスには大和の専門性が必要であった。
実はこのモデルに対して梨田が文句を言ってきたことがあった。しかしコンサルティングを入れて確認しても大和のモデルの頑健性が証明されたため大和のモデルが使用され続けていた。
英語も問題もある。梨田も黒馬も英語が得意ではなかった。本国とコミュニケーションは出来るが複雑な交渉などは彼らには難しく、コミュニケーションが取れる大和に対して本国からの信頼は厚かったのである。
面倒な事は山積みである。梨田も黒馬も決して諦めはしないだろう。
それでも大和は業務に集中するように努めた。それが一番の解決策だと信じたからである。
(つづく)



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