「遠く離れた空の下」第2章 第37話【そもそも負ける気がしない】

田 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

新製品「キボウ」の成功により新製品事業部はすべてが順調に行くかに思われた。ところが宇月が相談役となり実質的に引退し梨田が事業部長となったことで事業部は大きな変化を迎える。梨田は宇月派閥を壊滅に追いやり自身の子飼いをリーダーシップに据える事でまずは営業部を手中に収める。同じく製品企画部門においても黒馬が第二のチームキボウとなるキボウサポートチーム設立を提案する。これを乗っ取りの可能性があると考えた大和はチームの意思を確認したのちに梨田に黒馬の提案の採択を考え直してもらうべく交渉に向かったのであった。

激怒

波

大和は怒りの感情を抑えるので精一杯であった。

梨田はさらに続けた。

「お前らは本社の仕事が忙しいのだろ。だから両方とも出来ないんだろ。だから黒馬がやる。」

そしてこう付け加えた。

「俺はお前らがたいして忙しそうには思えない。やり方が悪い。正しい事を行わないからだ。」

大和は言葉を出したり一歩でも動いたりすると自分の感情を抑える事が出来ないだろうと思っていた。ただ黙って梨田を凝視して怒りに耐えていた。

そしてどうにか持ちこたえる事が出来たのは、こういう結末もシナリオとしては予想はしていたからであった。

しかしながら梨田の攻撃的で挑発的な言葉は想定を超えていた。

どうやって部屋を出たのか大和は覚えていなかった。

そもそも負ける気がしない

田

激怒の中にも冷静な自分もいた。

”なるほど、なるほど。闘いは思いの他目前なのかもしれない。”

そう考えた。

もちろん大和は無意味な争いなどしたくはなかった。

思えばアーセン社に入社後いろいろな事があった。宇月とその派閥と田中の派閥の争い。宇月との対立。数年間の間にビジネスとは関係のない事で大変な思いをする事が多かった。もうあのような無意味な時間や労力を費やすのはごめんだと考えた。

しかし闘いはやってくるのかもしれないし、ここまで来ると不可避なのだろうとも思った。

“このままチームや自分は梨田の攻撃にさらされ宇月派閥のように壊滅的な状況になってしまうのだろうか。”

大和は考えた。

”いや、そもそも梨田になぜ敵対視されてしまったんだ。どこで何を間違えた。”

大和は自身に問うてみた。

梨田が宇月派閥を執拗に攻撃しているとき、大和はその狂気のようなふるまいを嫌い梨田とは距離をとって近づかないようにしていた。

「キボウ」はアーセン社の中でも最も成長をけん引する製品に成長していたしその中で大和自身が果たした貢献は低めに見積もってもおつりがくるであろう。アーセン本社にとっても日本の窓口としての大和の信頼は絶大であったし梨田に敵対視される覚えはなかった。

それでも敵対視される原因として考えられる可能性は一つあった。

”顧客のために正しい事をやっていない。”との烙印を押された可能性である。

しかし誰が、何のために。大和にはそこがわからなかった。

”ここで詫びを入れれば敵対視をやめてくれるのか。”

大和は心の中ですぐにその考えを否定した。

”いや、あそこまで言われて俺が詫びを入れる事などありえない。”

子供のような未成熟な考え方かもしれないがここで下手に出ると何か大事なものを失ってしまう気がした。

大和は”なめられる”事を非常に嫌っていた。

今までも派閥には属さずに実力でここまできたという自負もあった。

”絶対に謝ったりはしない。”

と心に決めるのであった。

一度覚悟を決めると怒りの気持ちはだいぶ収まるのであった。怒っている時ではなく闘いの準備をしないといけない。宇月派閥のメンバーのようにただ攻撃を受けるだけのような状況は絶対に避けなければいけないと考えるのであった。

”そもそも負ける気がしない。”

そう考えて勇気が沸いた。

チームキボウには梨田や黒馬にはない絶対的な武器があった。

それはアーセン本国からの信頼だけではない。顧客管理においても絶対的に大和とチームキボウが有利であった。

市場にはインフルエンサーが存在する。彼らは領域の権威であり彼らの選択が他の顧客に与える影響は計り知れず大きい。

今では脚光を浴びているこの領域であるが10年前まではあまり誰も見向きもしない領域であった。大和はそのころからこの領域で仕事をしインフルエンサーたちとビジネスを行ってきた。その歴史は圧倒的で大和は国内で間違いなくトップ3に入る影響力をインフルエンサーたちに与える事が出来るのであった。

いくら梨田や黒馬が今努力したところで大和が有するインフルエンサーへの影響力を凌駕する事など不可能なのだ。

大和は勝機は十分にあると考えた。

(つづく)

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