「遠く離れた空の下」第1章 – 第2話【転機】

秋 ビジネス全般(海外での働き方含む)

前回までのあらすじ

営業職に就くも自身の価値を見出せなかった大和であったが専門性の高い製品を扱う事で仕事に対する情熱を抱くにいたり、その結果本社企画部門に抜擢される。

営業とはまるで違う本社での業務に苦戦するも少しづつ仕事を覚え始めて製品担当者のポジションを得る。一旦は身を置いた営業チームとは論戦を交えるも、丁寧に日本の状況を本国に伝え指示を得る事で評価を得る大和は仕事にやりがいを感じていた。

転機

暗雲

会社にとっては朗報であった。

大和が勤めるのは「知識集約型産業」。開発には多大に時間がかかりかつ成功確率は決して高くない。その一方で一旦成功するとその新製品は大きな利益を生み出す事が期待できる。

一旦大型製品を発売すれば収益ランキングで上位に位置することが出来るし、もしも数年新製品が出てこないと一騎にランクを下げてしまう。

大和が勤める企業でも新たな製品がまさに発売されようとしていたのである。

しかしそれは一方で社内のリソースを再配分する事を意味していた。

新製品に新たに抜擢されたチームが意気揚々と新たな企画を打ち立てて実行していく中で大和に課された使命は「如何に投資を抑えながら競合からのシェア逸脱を抑えるか」というものに変化した。

それまでとは違い製品を宣伝するための企画はほぼ却下され、新製品への投資へと充てられることとなった。

当時の大和にとってこの状況は理解しがたいものがあった。

自身の価値が下がってしまったかのように感じ、情熱が冷めていくのを感じるのであった。

興味

電話

業界の本社部門は専門性が高く、ヘッドハンターから転職の誘いを受ける事は珍しい事ではなかった。特に大和が担当する製品は花形な領域の製品ではないものの専門性の高さから他社への転職を斡旋するヘッドハンターからの電話受ける事は多かった。

大和はこれらの電話やメールはいつも無視をしていた。人生で転職など考えた事はなかった。

周りには転職していく先輩社員も多くいた。その一部は成功を収め、そして多くは転職先で一旦は成功を収めてもその後業界で名前を聞かなくなる人もいた。

大和にとって転職とはハイリスクな賭けのように感じるものであったのだ。

環境の変化がなければ無視していたであろう一つの着信。大和ははじめて「良いキャリアのオポチュニティがありますよ。」という着信メッセージに興味をもったのあった。

「話しを聞くだけなら決して損はしないだろう。」

大和は折り返しヘッドハンターに連絡をしたのであった。

面談

秋

ヘッドハンターからは直接会って話がしたいと伝えられた。

溜池山王のインターコンチネンタルホテル近くのドトールコーヒーで大和ははじめてヘッドハンターと面談を行った。

ヘッドハンターはダンという欧米系の長身の男だった。この業界の外資系企業で働くには多少なりとも英語が必要で英語力の確認もあってかヘッドハンターの多くは外国人である。

オーストラリア訛りの英語を話すダンと現状や今後のキャリアを話しした。

大和はこの時「あまり自身の将来を考えていない」自分に気づいた。

やりがいのある仕事をやってさえいれば満足だった。ところが5年先、10年先のキャリアに関しては何も考えていない自分に気づかされたのある。

「企画部門で将来は課長になって部下を持ちたい。」

今思えば浅はかなキャリアの希望を伝えたように覚えている。

「大和さん、今2社が企画担当者を探しています。1社目はヨーロッパの中堅企業、バックに巨大な資産を有する企業が就いていて中堅ながら安定した会社です。もう1社は欧米系のベンチャー企業です。日本で事業拡大をする中で企画担当者を探しています。こちらもベンチャーながら資産の状況は健全です。大和さんの希望に合うのは後者でしょう。おそらくすぐに管理職に就いて部下を持つことが出来るでしょう。前者の企業では入社後に結果を出すまで待たないといけないかもしれません。」

「そんな簡単なのか。」大和は思った。大和は管理職試験の直前であり、勤めている会社の管理職試験は難関であった。

部下をもって何かやりたい事があったわけではなかった。ただ管理職に早くなりたいという安直な考えだけが大和の興味を掻き立てるのであった。

面接「欧米中堅企業」

面接

この時点で大和は転職する自分自身を想像出来なかった。

1社目の面接官は丁寧な人でなぜ転職を考えているのか。何が出来て何をやりたいのかを丁寧に質問してくれた。

「あなたはまだ準備が出来ていいないように感じます。うちは今大和さんが勤めている会社に比べれば規模も小さいし優しい会社ではありません。実力が伴わない、もしくは大和さんがやりたい事が出来ない可能性があるのであれば転職はお互いにとっていい結果を残さない。もし大和さんが本気で転職を考えているならその時は前向きに進めましょう。ただし今はやめた方がいいのではないでしょうか。」

遠回しに断られたのかもしれないと思いながらも面接官の真摯な対応に感謝するとともに、どこか安堵する自分自身がいたのも事実であった。

「やっぱり転職は辞めておこう。確かに今は厳しいかもしれないが頑張って新しい製品の担当者を目指すのも悪くないかもしれない。明日ダンに転職は辞める旨伝えよう。」

面接から帰路につく京王線の中で一旦転職は凍結する事を決めたのであった。

(つづく)

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