ここまでのあらすじ
よりやりがいのある仕事を求めて大手クラフト社からベンチャー企業モゾパス社へ転職した大和を待ち受けていたのは多忙な日々であったが、はじめて部下を持ちチーム一丸で努力した結果担当製品「ダラX」を成功裏に導きその結果は本国で表彰を受ける。順調に思えた大和の未来であったがモゾパス社が主力製品のリコールと品薄を起こしてしまった事で会社の株価は急降下し数社から敵対的買収をしかけられる。最終的にモゾパス社を買収したのはなんと大和が勤めていたクラフト社であった。両社を統合するプロジェクト・フジを任され懐かしいクラフト社で元同僚と過ごす日々が増えて来た大和は、この大企業クラフト社でキャリアを再開させる事が本当に自分にとって幸せな事なのか悩むのであった。
笹塚で金曜日夜7時に

統合プロジェクト・フジでの仕事を終えて帰路に就こうとしていた時携帯の着信が鳴った。見慣れない電話番号であったが統合で新たな仕事関係者も増えたこともあり関係者からの電話だと思って電話に出た大和。
「大和さん、久しぶりです。山田です。元気にしていらっしゃいますか。」
電話は山田からであった。山田は大和がモゾパス社へ転職するより1年前に他社へ転職している研究職の社員であった。部門は違えど同年齢であった事もありクラフト社在籍時には飲みに行ったりもした仲であった。
「モゾパス社が買収されるなんて思ってもいませんでした。大和さんはクラフト社へ戻るのですか。久しぶりにお互い近況報告で飲みに行きませんか。」
山田と話をするのは実に3年ぶり近くであり驚いたが気分転換も兼ねて久しぶりに話をしてみるのもいいかもしれないと大和は思った。
「それでは笹塚の焼き鳥屋で来週金曜日夜7時にお会いしましょう。」
こちらの返事を聞く事なく一方的に電話切る山田。山田が研究職にありがちなマイペースであまり他人の事を考えない我儘な人物である事を思い出し「断わればよかった」と後悔する大和であった。
近況報告

山田は7:45頃に悪びれる事なくやってきた。
「山田のこういうところが嫌いだったな。」
大和はクラフト社時代の頃を思い出しながら山田とさっさと話しを終わらせて帰ろうと考えていた。
「クラフト社にもポジションがあってよかったですね。買収された側の社員はクビになったりするっていうじゃないですか。心配してましたよ。あっ、名刺お渡ししますね。」
”アーセン社 研究サポート部門課長”
と名刺には書かれていた。
アーセン社はEUの主要国に本社を置く業界中堅企業であり、本国での圧倒的な知名度と堅実な経営で中堅ながら業界では名の知れた会社であった。
「今アーセンでは間もなく新たなポートフォリオ部門の新製品発売の準備が進んでおりまして忙しいんですよ。新製品発売となると製品企画の専門知識をもった人が必要で。あっ、いや既に昨年企画担当者は入社したんですけどね、その人たった一人では新製品発売は出来ないのでその人の部下になる人を探しているんですよ。なかなかいい人がいなくて困ってるんです。」
「大和さんのこれまでの専門領域とこの新製品はまさにピッタリなんですよ。それでポートフォリオ事業部の事業部長に話したら会いたいって言ってましてね。大和さん興味ありますか。」
その新製品は業界で噂になっていた。第2世代機種であり現在市販されている製品で克服できない問題点を克服する事を期待された製品として注目されていた。
「しかし、その既に入った人の部下なんですよね。って事は役職はなんですか。」
「課長補佐ですかね。あっ、交渉しますよ。」
既に部長補佐であった大和は課長補佐で転職する気は毛頭ない事を山田に伝えた。
「また大和さんとお仕事したかったんですけどね。残念です。この話忘れてください。」
会計は山田が支払ってくれた。領収書をとっているところを見るに勧誘費で経費精算するのであろう。
去り際の山田の言葉を聞いて内心安堵感を感じるのであった。
会ってみてはどうですか。

2週間ほどが過ぎ忘れた頃に山田から再度連絡があった。
「あぁ、大和さん。よかった繋がって。いやぁ、あの後事業部長が業界での大和さんの噂を聞いたらしくどうしても会いたいと言ってるんですよ。ほら、前言った話。先に入った人の部下ってのも場合によっては同格で、あっ、でも課長なんですけどね。いいでしょ、課長でも。で、とにかく会ってくれませんか。事業部長にしつこく言われてて大和さんが会ってくれないとこっちも困るんですよ。」
相変わらずの山田に苦笑いしながらも、その新製品自体に興味はあった。
クラフト社時代に担当していた製品と同じ領域の製品であり、その製品のポテンシャルは理解できるしどういう発売プランを組むべきかイメージする事が出来た。モゾパスでは若干違う(似てはいるが)領域を担当し転職直後苦労したが、もしこの製品を担当するのであればすぐに活躍できるだろう。
「で、明日空いてますか。大和さん。お昼アーセン社のある中野まで来てください。」
突然すぎる話しに一旦断ろうかと考えた大和であったが山田の顔を立てる意味でも会ってみようと考え11時半にアーセン本社へ訪問する事を約束した。
大和は自分がアーセン社で働く事をまだ想像する事は出来なかった。
(つづく)



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