ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や企業名などの名称はすべて架空であり実在しません。
大和が3社目に選んだEUの名門企業は欧州での評判とは裏腹に日本においては激しい派閥争いが繰り広げられる職場であった。派閥には属さず上司である事業部長・宇月と対立しながらも実績を上げていく大和は事業部の期待の新製品「キボウ」製品企画担当のポジションを獲得する。しかしながら宇月の策略によって部長のポジションを得ることが出来ない失意の大和であったが、社長クロースの命を受けUSチームへ参画する。USで得た知見をもとに「キボウ」発売プランをアップデートしチーム構想の承諾を取締役から得た大和は待望のチーム「キボウ」を立ち上げる。お祝いをしたいと申し出た宇月の対抗派閥・田中の開催する酒席で大和は田中派閥の中堅社員・大曲から「キボウ」をめぐるここまでの変遷と忠告を受けるのであった。
気を付けるべきは

田中が続ける。
「ご存じのように役員会議ではキボウ担当に関する討議も行われました。そこでも宇月は黒馬を推薦していました。私は大和さんを推薦したんですよ。」
本当だろうか。
「それでどうなったのですか。」
「宇月はこういったのです。大和は確かに専門性も高く優秀かもしれない。しかし社会人として未熟すぎる。人の上に立つには子供だし未熟だ。もしも大和をキボウの製品企画担当者に任命すればいつか大和は社に損害をもたらす。」
田中は大和の目を見つめながらそう言った。
「信じるかどうかは大和さんの問題だが、私は忠告しておきたいと思っていた。」
大和は返す言葉をすぐに見つける事が出来なかった。
確かに宇月が言いそうな言葉でもあるし、言ったとしてもそう驚きはない。しかし一方でこれは自分を派閥に取り込むための言葉かもしれない。ゼロでないにしても大袈裟に言っているだけかもしれない。
すぐに言葉を返さない大和に対して大曲が口を開く。
「大和さん、あなたは私に似ている。」
似ているのだろうか。そうは思わない。と大和は考えた。
田中が続ける。
「私は大和さんを守りたいと思っている。何かあればいつでも私のところに来なさい。」
大和は御礼を伝えた。どんな思惑があるにせよアーセン社に入ってこのような言葉をかけられたのは初めてであった。
社長クロースは言葉をかける事はなかったがいつも大和を評価してくれた。クロースは本国に帰任し大和の強力な後ろ盾がなくなる中で嬉しい言葉ではあった。
「これは言うかどうか迷ったのですが。」
大曲がいいにくそうに話し始める。
「黒馬には気を付けてください。」
彼の行動にはいつも裏がある

この言葉にはさすがに大和も驚かされた。
大曲の話は要約すると下記のとおりであった。
大曲自身が「キボウ」の筆頭候補から脱落した際に黒馬へ引き継ぎを依頼されたそうだ。黒馬は大曲には感謝の言葉を述べるものの裏では宇月に大曲の準備不足を進言した。その事を知り憤慨した大曲は黒馬に詰め寄ったが黒馬はトボケるばかりで話にならない。次の日には何もなかったように大曲のデスクに笑顔でやってきてまるで親友のように接するのだと言う。大曲がいう事が正しければこれは1例であり、他にも黒馬と仕事をした人はみな黒馬に手柄をもっていかれたと怒っている人もいる。
「今は大和さんにそのように接していると思います。違いますか。」
確かにチーム「キボウ」メンバーの中にも
「大和さん、黒馬さんは危ないです。気を付けてください。」
と忠告するものもいた。
ただし具体例を聞くと大曲の話もそうなのだがあまり実際の害悪が見えてこない。
(実際に注意すべき人物とはそういうものなのかもしれない。何が危険か説明するのが難しい。)
大和は自分と「キボウ」製品企画担当のポジションを争った黒馬の事を信用していた。ポジションを争っていく中で黒馬はいつもフェアで大和自身を誹謗中傷するようなこともなかったし(少なくとも大和は気づかなかった)大和が「キボウ」のポジションを得た後もチーム「キボウ」で大和の部下になっても言いといってくれた。事業部の中で生き残るためには事業部長である宇月との関係は重要であり、大和は宇月と距離を取っているが黒馬が宇月と親しくするのは黒馬の処世術でありそれは責めることが出来ない。
「それは黒馬が宇月といろいろな約束を裏でやっていたから余裕だったのでしょう。絶対に勝てると思っていたから大和さんに策を弄ずる事がなかっただけですよ。今も何か企んでいるかもしれません。」
そうなのだろうか。もしかするとそうなのかもしれない。しかしながら大和は社内で、少なくとも事業部内では四面楚歌な状況でチーム「キボウ」のメンバーを率いて発売準備をしていたし、さらに黒馬を敵対視しては働く事が出来ない。
黒馬の事は観察はしよう。しかし今現在敵だとは思わない。
大和は心の中でそう結論づけた。
「黒馬には気を付けてください。」
大曲は最後にしっかりとした口調であらためての忠告を行った。
(つづく)



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