「遠く離れた空の下」第2章 – 第20話【キボウ発売】

ルフトハンザ ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。ご理解ください。

アーセン入社以来対立してきた上司であり新製品事業部部門長・宇月との関係は「キボウ」販売予測変更の判断をめぐって更に悪化、大和は宇月の反対を無視し自身の新たな販売予測案を役員会議に提案する。失敗したら社を去る覚悟でのぞんだ役員会議で大和は社長、取締役から新販売予測案の承認を得る。これによりさらなる関係悪化を危惧した大和であったが事態は思わぬ方向へ動く事となる。はじめて利害関係が一致した宇月と大和の関係は好転し二人はお互い誤解があった事を認める。そしていよいよ「キボウ」発売が目前となったのであった。

「キボウ」発売

ルフトハンザ

製品開発に時間がかかる一方で製品のライフサイクルの長いこの領域において、新製品の発売にかかわる事が出来る人間は決して多くない。

責任者として新発売に関わるのは大和にとってもはじめての経験であった。

発売日を直前にすると不安が頭をよぎる。

「何か重要な事をやり残しているのではないだろうか。」「初期不良が発生するのではなかろうか。」

ベッドに入っても気になってパソコンを開けデータを確認した。

そして当然こうも考える。

「ここまでやってきたのだ。絶対に成功するに決まっている。」

不安と期待が入り混じった気持ちを抱える日が過ぎていく。

思えばアーセン社に入って宇月や派閥との対立、前社長クロースのサポート、「キボウ」製品企画担当者のポジション獲得、USチーム加入、数々の役員会、そしてチーム「キボウ」の設立。本当にいろいろな事があった約2年間であった。

チーム一丸となって努力をしいよいよ発売日を迎えたのである。

そして、

日本の「キボウ」の発売は大成功を収めた。

発売数か月で売り上げ総額はアメリカに次いで全世界で2位に、そして市場占有率はEU の本国に次いでやはり2位、占有率ではアメリカを凌ぐ結果を達成した。

大和が役員会議で提案した販売予測は元のプランよりは下げたものの、実際の売り上げはほぼ予測通りであった。

精密な技術が要求される製品「キボウ」は実際の売り上げ目標と生産計画に差異が発生しない事が求められており、直前での検証結果の結果混沌とした状況での販売予測作成技術においても大和は高い評価を得た。日本だけでなく世界の製品企画担当者の中でも大和は一目置かれる存在になる事に成功したのであった。

大和は自身の成功もうれしく誇りに思ったし、チームの事も誇りに思うのだった。

「我々は成し遂げたのだ。」

新製品事業部の勢い

馬

新製品事業部は新製品「キボウ」と「マボロシ」を発売するために設立された部署である。「マボロシ」の発売に不透明感が漂う状況で実際に製品がなく会社に対する「売り上げ」貢献がゼロであった事業部はこの「キボウ」成功で大いに盛り上がった。

宇月は自身が役員になれるチャンスが得られたと考え上機嫌であった。宇月と大和の人間関係はさらに大きく改善された。

勢いを得た宇月はさっそく田中派閥の解体にとりかかった。

まず田中が降格した。

何か他に理由があったかもしれなかったが、周りの目から見るとこの派閥争いにおいて勝者が宇月であることは一目瞭然であった。

そして田中派閥において中堅の実力者・大曲の異動も発表された。

アドバイスや忠告をくれた田中や大曲に対して思うところはあったものの、大和は発売直後の多忙さに忙殺され余裕もなく他人を同情する暇などなかった。

ただ田中派閥が解体されていく様を見ることしかできなかった。

宇月は成功の功労者である大和には猫なで声であからさまに丁寧に扱う事が多くなった。

しかし大和はやはり宇月の事を尊敬は出来なかった。

関係は改善した、誤解も解けた。

しかしながら宇月のビジネス能力にはいまだ懐疑的であったし、そして何より宇月は自分ではいっさい仕事をしない男であった。自身が手を動かすタイプの大和にとっては軽蔑に値するタイプの上司であったのである。

関係は改善したものの大和は宇月や派閥とは距離を取り続けた。

宇月たちの飲み会やランチには参加する事はなかった。

大和は尊敬できない人物と長い時間を共にする事を非常に苦痛に感じるのであった。せっかく関係改善したからこそ距離をとっておこうと考えた。

今思えば大和がここで宇月に近づき、宇月と派閥のためとは行かないまでも、もっと宇月や派閥のメンバーを立てながら仕事をしていればすべてはうまく行っていたのかもしれない。ずいぶん経った今だからそう思えるが当時の大和にはそれを理解する事が出来なかったのである。

それでも宇月は社内における発言力を高めることに成功した。

新製品の成功は当然社にとって生命線である。アーセン社ではじめての領域の新製品を成功させた大和には評価と注目が集まり、社長の今山も何かあると宇月を通さず大和に直接連絡をよこすようになっていた。

それが信頼されている証だと思い大和はうれしかった。

(つづく)

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