ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。ご理解ください。
アーセン社に入社後数々の困難を乗り越えて掴んだ新製品「キボウ」製品企画担当者のポジション。その後も決して楽ではなかった日々を乗り越えいよいよ迎えた「キボウ」の日本での発売。「キボウ」は記録的な成功をおさめアーセン本社や世界からも称賛を受ける大和は社内での発言力を高めることに成功する。そして対立してきた事業部長・宇月との関係も「キボウ」の成功で一気に好転しすべては順調に動き出す大和のアーセン社でのキャリアであった。
宇月と黒馬

黒馬はこの頃完全に存在感を失っていた。「キボウ」の成功とともに脚光を浴びる大和やチーム「キボウ」メンバーとは違い、いまだ発売の見通しが不透明な「マボロシ」を担当する黒馬が表舞台に出ることはなかった。
一方で発売後の多忙な日々を送る大和から見ると黒馬が気の毒にも思えたし正直「楽そうだな。」と思う事もあった。実際黒馬は社内メンバーを募ってボランティアをはじめアーセン社の社外広報活動の一翼を担おうとしているようであった。
チーム「キボウ」メンバーの中には、自分たちが忙しい中ボランティアで名前を売ろうとしている(実際そうであったかどうかはわからない。そういう風に見えただけかもしれない。)黒馬を悪く言う者もいた。
「キボウ」の製品企画担当を争った黒馬であっただけに現在の黒馬の状況は不可抗力であり、やりたくても「マボロシ」で仕事がない黒馬が気の毒だと、大和はそう考えるように努めた。
そのような中で事業部長・宇月と黒馬の間でトラブルが発生したのである。
トラブルは宇月と黒馬が共にカナダへ海外出張へ行った際に起こった。
この出張には大和も参加したかったのだが(実際、キボウに関して重要な会議が設定されていた。)、キボウ発売直後に宇月と大和自身が日本を留守にするのはよくないと判断して大和は日本へ残ることにしたのである。
「そもそも宇月がカナダに行って何が出来るのだ。」
と不満に感じる大和であったが、宇月は海外出張があれば必ず自分が行くのが常であった。周りではその貯めたマイルで毎年家族でハワイ旅行に行っているという噂もあった。本当かどうかわからないが宇月だったら十分ありえる話であった。
話は宇月と黒馬のトラブルに戻る。
その日黒馬は自由参加の会議であっため会議に参加せず観光しようと考えたらしい。(その判断も大和をいらだたせるものであったが。)運が悪いことにホテルを出ようとした黒馬は宇月とフロントで出くわしてしまったらしい。宇月はスーツを着ていたのに黒馬はかなりラフな私服姿であった。それを見た宇月が黒馬に激高したらしい。宇月が自由参加の会議に出ようとしていたことにも驚いたが、黒馬も詰めが甘いところがあったのは事実であった。
なぜ今なのだろうか

このトラブルの話を大和は黒馬自身の口から聞いた。黒馬帰国後にランチに誘われ久しぶりだと思い一緒に行った定食屋でこのトラブルを聞いた。
黒馬は自分が悪かった事は認めた上で宇月に対する不満を吐露した。
「カナダの会議でも何も発言しないし、質問を受けても意味の分からない事ばかり答えていて一緒にいて恥ずかしかったですよ。自由参加の会議だって前日に宇月が参加しないって言っていたから自分だってちょっと観光しようと思っただけなんですよ。それなのに人間性を否定するような言い方してきて、俺は宇月を許せないですよ。」
明らかに黒馬の宇月に対する話し方は変わっていた。
今までは大和が宇月の不満を漏らすと宇月は同情・同調する事はあっても決して宇月の悪口は言わなかった。
「大和さん、無視ですよ。無視。」
それがこの日をきっかけに黒馬があきらかに宇月へ攻撃的な態度を示すようになったのであった。
大和は少し嫌な気持ちがしていた。
(なぜ今突然宇月の悪口を言い出したのか。今までは決して言わなかったではないか。確かに怒られたのがきっかけかもしれないけれど明らかに豹変したではないか。)
「黒馬には気を付けてください。」
チームや大曲の言葉が脳裏に浮かぶ。
(キボウ成功で宇月と俺の関係が改善した事がきっかけかもしれない。それまでは俺と宇月が対立していた。その状況はもしかして黒馬にとって願っていた状況だったのではないだろうか。対立があれば俺は決して部長になり黒馬の上に立てない。年下で後から入社した俺が黒馬の上に立つ事を陰では嫌がって対立をよしとしていたのではなかろうか。状況が変わり宇月と俺が近づいた事で黒馬は焦っているのだろうか。)
そんな考えが頭をよぎる。
(しかし黒馬は決してそんな男ではない。きっと俺の邪推だ。)
大和はそう考えるようにした。
(黒馬だってきっと宇月に対する不満はあったのだろう。それが溜まりにたまってオーバーフローしてあふれ出したのだろう。)
大和はそう自分自身を納得させた。
(つづく)


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