ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
事業部長・宇月とその派閥と距離を取りながらも新製品「キボウ」を成功させた大和は社内での発言力を高めることに成功する。また成功を通して対立して来た宇月との関係性も改善する。忙しい中がらも平穏な時が流れる中、黒馬に紹介されたのは梨田という男であった。梨田入社の知らせを宇月から聞く大和。「梨田が入社するとお前も困るやろ。」宇月の言葉に混乱する大和であった。
確かなこと
宇月は続けた。
「大和、俺はなぁ、今山社長に言うとるんやで。大和を部長にしてやってください。ところがやなぁ、今山社長は言うんや。大和は早いってな。なんでやろな。」
言葉に窮する大和にさらに宇月は続ける
「お前は部長になる器やで。」
どこまでが本当なのだろうか。考え込む大和。
確かにアーセン入社直後、まだ宇月と関係が良かったころ宇月は自身の派閥メンバーで現在営業部長を務める部下にこういった。
「こいつは部長に確実にのぼってくる男や。」
あの言葉も今目の前で発している言葉もこれは真実なのだろうか。それとも単に俺を取り込もうとしているだけなのだろうか。
大和にはわからなかった。
そこにはたくさんの思惑があった。宇月の思惑。大和の思惑。
部長になりたいという強い気持ちもあった。
確かなことはそこには思惑がうずめいていたことだけであった。
皆そう言う
宇月の部屋を出た大和は出張中であった黒馬へすぐに連絡をした。
「さっき宇月から梨田さんの事を聞きました。どうやら本当に入社されるようですね。ただし気になることがあって連絡したのですが、どうやら梨田さんは宇月の下で入社するらしいですよ。」
「それはおかしいな。」
黒馬は怪訝な声で話した。
「梨田さんは私には事業部長で入社すると言っていましたし、それにもしも宇月の下だと梨田入社しないかもしれない。」
そしてこう付け加えた。
「大和さんも梨田さんが入社しないと困るでしょ。」
”皆そう言う。”
と大和は思った。
”宇月は梨田が入社すると俺が困ると言った。黒馬は梨田が入社しないと俺が困ると言った。困るのは一体誰なんだ。俺じゃない。あなた達自身が困るんだよな。なんでこういう話方をするのだろう。”
大和はうんざりとした。
そして黒馬と梨田が密に連絡していることも感じた。元上司・部下の関係である梨田と黒馬だけにそれは連絡するだろうな、とあまり気にはしなかった。
それから数週間して正式な辞令が発表された。梨田の入社が正式に発表されたのである。
辞令
大和にとって梨田のポジションは驚きであった。宇月とも適度な距離を取ることを継続していた大和は直前まで梨田のポジションを宇月から聞くことはなかったし黒馬も何もその後梨田に関しては話す事はなかった。
＜梨田を営業本部長に任命し宇月にレポートする事とする＞
梨田は宇月の部下として営業本部長として入社をしたのであった。
そして製品企画部長は宇月が事業部長と兼任が継続されることになった。
それなりのポジションでないと入社しないと言っていた梨田であったがそこには裏があった。
ガンマ社で剛腕をふるった梨田は意気揚々とバルゼ社へ入社した。ところが梨田はそのバルゼ社で社内規定違反を犯し社内で干されていたのである。
社内規定がバルゼ社にばれてしまったのは内部告発であったそうだ。ガンマ社同様バルゼでも剛腕をふるう梨田に対してそれを快く思わないメンバーも数多くいたらしく、その中の一人が梨田とその梨田が社内規定に違反することになったプロジェクトに参加していた全員を告発した。その結果プロジェクトメンバーは不問となったが梨田は干され製品企画から裏方部署に異動させられていたのであった。
梨田の入社が発表されてから知ることになったのだが、アーセンの新製品事業部の営業組織にはバルゼ出身社が10名ほどおり、彼らは梨田がバルゼで剛腕をふるいそれを嫌ってバルゼからアーセンへやってきたのであった。彼らはまだバルゼに仲間がおり梨田の情報に詳しくそれを大和に教えてくれたのであった。
梨田がバルゼでそのような立場にある事を黒馬からは聞かされてはいなかった。
そして大和にとって胸騒ぎを感じる情報がもう一つ存在した。
それは大和がモゾパス社時代に知り合ったバルゼ社の井上の存在だ。井上は役員であり、梨田を閑職へ追いやったのはこの井上だったらしい。
はじめて梨田と会ったとき、大和はバルゼ社で知っている井上の名前を話題の一つとして話した事を思い出した。そしてその時梨田が言ったことをこの時なぜか突然思い出したのであった。
「お前は井上を知っているのか。危ないやつだな。」
（つづく）
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