ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
宇月との対立を乗り越え新製品「キボウ」の発売に成功した大和とチームキボウは新たな闘いの波にのまれていく。宇月の後任となった梨田は営業組織に残る宇月派メンバーを粛正し営業組織での絶対権力を築く。そして次に本社製品企画部にその攻撃は移るのであった。黒馬が率いるキボウサポートチームはチームキボウの業務を奪いに来るのであった。
マボロシ

そもそも黒馬が担当しているもう一つの新製品「マボロシ」はどうなったのだろうか。
なぜ黒馬はキボウサポートチームを作る必要があったのであろうか。
それは黒馬には後がないからであった。
「マボロシ」は高いポテンシャルを秘めてはいたもののここ数年に渡る開発時の不具合を克服できずにいた。それでもアーセン社本国やEU圏で本国と近しい国々では発売にどうにかたどり着くことが出来た。しかしながらそのような状況であったので売り上げは非常に限定的でありマボロシの価値は著しく低下していた。
さらにマボロシの苦難は続いた。USが発売を断念したのである。
アーセン社はヨーロッパの会社であったがUSの市場はやはり世界で最も大きくここでの成功が製品の価値を決めると言っても過言ではない。アーセンUSもマボロシの発売に向けて努力を重ねていた。しかしながらUSの規制当局がマボロシの発売を推奨しなかったことによってアーセンUSはマボロシの発売を断念せざるを得なくなった。
日本の規制当局はUSの動向を注視していた。マボロシだけでなくどの製品においてもここ日本における規制当局の判断はUSに準ずることが多いのである。そのため日本アーセンは現状で当局に申請を上げると却下される可能性が高いとしてマボロシの申請を出来ずにいた。却下されると次がないためどうにかマボロシに明るい話題が出るまでに待つことを決めたのである。
何年待つ必要があるかは誰にもわからないし、そもそも待っても成功するのかどうか疑わしい状況になっていた。
黒馬は大和より年齢も上であったし入社も先であった。黒馬はキボウを担当するために入社したにも関わらず前社長クロースが黒馬の能力を疑問視し後に入社する大和にそのポジションを奪われた。
大和はチーム(部下)も持ちキボウは成功した。
一方で黒馬はこのままではチームを持つことも叶わない。さらに言えば社内でのポジションはマボロシと共に非常に危ういものであった。
黒馬にとってチームを持ちアーセン社で働き続けるためには、キボウサポートチームを作る事は唯一の手段であった。
黒馬が自分で考えたのか、梨田の入れ知恵なのかはわからないがキボウサポートチームの設立は両者にとっても利害関係が一致した。そして今や梨田と黒馬にとっては大和とチームキボウは邪魔な存在となっていた。
”もしも俺が黒馬の立場であったならどうしたであろう。”
大和に同情の気持ちは残ってはいた。しかしこれはもう負けることのできない闘いなのであった。
役割分担

こうなってしまった以上、大和に出来る事は”チームキボウとキボウサポートの役割分担を明確にすること”だけであった。
梨田が事業部長である以上、今更黒馬のキボウサポートチームを解散させることはできない。キボウサポートチームの役割は一部チームキボウとオーバーラップしている。その役割を曖昧なままにしておくことは衝突を加速させる可能性もあったし、実質的に営業をサポートする事になるキボウサポートチームは営業から評判を集め政治的にチームキボウを窮地に追いこむ可能性もあった。
大和をはじめとするチームキボウと黒馬率いるキボウサポートチームとの最初の会議の議題はさっそくこの役割分担が中心であった。
大和の懸念はこの会議に梨田が参加する事であった。会議で梨田がトップダウンで役割分担を指示されるとそれを押し返すのは困難であった。しかし梨田は会議には出席しなかった。梨田が黒馬を信じて任せたのかもしれないし、黒馬も強く出てこない大和を軽く見ていたのかもしれない。
直前まで会議参加予定者に梨田の名前があったのだが実際に会議に梨田は現れなかった。これは大和にとっては朗報であった。
会議はお互いの自己紹介から始まった。一定の緊張感はあるものの表面上は和やかに自己紹介が進んだ。キボウメンバーもサポートメンバーもこの会議の重要性は理解していた。そしてその代表である大和と黒馬の議論がどうなるか緊張感をもってこの会議に参加していた。
そしてまずは”キボウサポートチームの業務内容案”の提案が開始された。黒馬のプレゼンが始まると誰もが集中してその内容に注視した。
(つづく)



にほんブログ村


転職・キャリアランキング
コメント