「遠く離れた空の下」第2章 第29話【選択の余地はなかったのだろう】

道 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

事業部長との対立の中新製品「キボウ」製品企画担当者獲得の争いに勝利し念願のチーム「キボウ」を結成した大和は「キボウ」の成功により社内での発言力を高めることに成功する。また事業部長・宇月は「キボウ」成功が評価され宇月にとって悲願であった役員に就任する。社長・今山がバルゼ社から引き抜いてきた梨田と宇月の関係性に注目が集まるのであった。

意外な変化

変化

いよいよ宇月の時代がやってきたのである。役員に就任した宇月のマネジメントスタイルに注目が集まった。

これまで派閥を形成しトップダウンな組織運営を行ってきた宇月は果たして役員に就任した事でどう変化するのだろうか。

二つの可能性が噂されていた。

一つは、役員という肩書を武器にさらにワンマンでトップダウンな組織運営を行う事である。

そしてもう一つは、念願の役員就任を達成し宇月は落ち着くのではなかろうかというものであった。

誰もが前者を予想した。

これまでの宇月のスタイルを考えるとさらに派閥を強化し宇月のいう事を聞く部下を集めさらに「宇月帝国」を強化するのではなかろうかと予想された。

こういう予想があったからこそ派閥メンバーは皆宇月について来た事を嬉しく思っただろうし、自分たちの選択が間違っていなかった事を確信したに違いない。

しかし実際には後者だったのである。

宇月は人が変わったかのように丸くなった。

これまでは会議で梨田と意見が割れると強引に自身の意見を押し通すのが常だった宇月であった。

「確かに宇月さんのおっしゃる通りでした。」部下の前で謝罪をする梨田は屈辱的であっただろう。そして自分にひれ伏す梨田を得意気に宇月は眺めることが頻繁にあったのである。

ところが役員就任後にはまるで違った。意見が割れると宇月は梨田の意見を尊重した。

「梨田の言うとおりやで。皆梨田の言う通り事を運ぶんやで。」

派閥メンバーはこの意外な変化に皆驚きを示すのであった。

大和はこのように解釈していた。

役員になった今もはやビジネスには興味がないんだろう。梨田に任せて自分はもう働く気もなく好きなように振る舞うのだろう。

“本当に最低の奴だ。”

大和はそう思った。

派閥メンバーはこう考えた。

役員になった今宇月が梨田を攻撃する必要はなくなった。もう勝敗はついたのだ。つまり宇月は余裕なのだと。

そう考えて派閥メンバーは安心するのであった。いや、安心したかったのかもしれない。宇月の変化はそれくらい大きなものであった。

選択の余地はなかったのだろう

道

宇月の変化の理由を知るのを待つのはそう長い時間ではなかった。

3か月後新たな辞令が発表された。

“宇月を相談役に任命する。宇月の後任として梨田を新製品事業部事業部長兼役員に任命する。”

相談役は実際には何の権力も持たないお飾りのポジションである。

これまで会社に貢献した役員に与えられるポジションであり、そのやり方には問題があったもののここまで組織を大きく成長させ「キボウ」を成功させた宇月にアーセン社が与えた名誉職であった。

そしてこのポジションの意味するところは“近いうちに定年して欲しい”をいう会社の意思である事をこれまでの人事で社員は誰もが知っていた。

下記は大和の推測であり、そして社内の噂も同じであった。

やはり今山社長は梨田をバルゼから引き抜いた時点で梨田を事業部長にする事を心に決めていた。しかしながら宇月をすぐに切ることも出来ない。そこで一旦営業のトップに梨田を据えて時期を見計らって宇月からの交代を考えた。この交代のタイミングが今山にとって早いのか遅いのかはわからなかったが何らかの判断でこのタイミングだと判断したのであろう。きっと今山は宇月に役員就任時にいずれ梨田に事業部長のポジションを任せる事を宇月に伝えたのであろう。その見返りとして短期間ではあるが役員就任という土産を宇月に与えたのであろう。宇月にとってはこれは選択の余地はなかったと思われる。

派閥メンバーは皆憂鬱な顔をしていた。梨田が実権を握った今、宇月についてきた自分たちがどうなるのか不安であったのは間違いない。

大和は一連の人事に対して大きな不満を抱いていた。

「キボウ」を実質ここまで成功に導いてきたのは俺やチームではないか。なぜ宇月が短期間でも役員になり、そして梨田は事業部長に就任するのだ。なぜ俺は部長になれないのだ。

大和に不安はなかった。宇月であれ梨田であれ上司は誰でもいい。自分の能力に自信をもっていた。

ただ大和の心にあったのは怒りに近い不満であった。

(つづく)

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