「遠く離れた空の下」第2章 第28話【たいして難しくもないですよ】

数学 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

新製品「キボウ」の成功によりすべては上手く行くかに思われていた。束の間の平穏な日々を過ごす新製品事業部メンバーにとって大きな変化が訪れる。社長・今山がバルゼ社から梨田を呼び新製品事業部の営業本部長に任命したのだ。事業部長・宇月の派閥に属する営業部のリーダーシップメンバーは宇月についていくべきか、それとも上司である梨田につくべきなのか困惑するのであった。

「たいして難しくもないですよ。」

数学

新製品事業部のリーダーシップ会議は2週間おきに開催される。会議には大和や黒馬、そして営業のリーダーシップが参加する。もちろん宇月と梨田もであった。

会議では宇月と梨田の意見はよく割れた。宇月の発言に対して梨田が意義を唱える事はなかったがその一方で梨田の提案に対して宇月はよく噛みつくのであった。

意見が割れると宇月はリーダーシップに問いかける。

「で、お前らはどっちが正しいと思うねん。」

営業部長たちは困惑した表情を見せた。上司であり営業本部長である梨田の意見に賛成するのか、それとも事業部長であり派閥の長である宇月につくべきなのか悩んだあげく絞り出すように言うのであった。

「宇月事業部長のおっしゃるとおりかと思います。」

梨田はそのような時には大きな目をさらに見開いて自分の部下たちを凝視するのであった。

大和は気楽であった。”派閥なんかに頼るからこんな事になるのだ。”と冷ややかに営業部長たちを観察するのであった。

大和は誰にも臆する事なく、そして気にする事なく「正論」を述べた。その大和が考える「正論」(それが本当に正しかったのかどうかは別として)は時に宇月に賛成し、またある時は梨田に賛成するのであった。「キボウ」の成功で発言力が増していた大和は自分の発言で回りが右往左往する様を楽しんでいた。

これは後に大和が気づいた事である。その当時の大和はこのような事は微塵も感じていなかった。

大和がとった行動はたぶん間違っていた。

日本には「恥」の文化がある。

それは恥ずべき事を人前では行わないという自戒にもなるが、一方で人前で反対意見を言われるとそれを「恥をかかされた」と感じ中には根に持つ人が多くいるのだという簡単な事を当時の大和はわかっていなかった。

大和は正しいと思う事を自分の理論で論破してよく人を傷つけていたのであった。

中学時代、数学の問題をあてられた大和は黒板にスラスラと解答を書いた。

「すごいな、大和。」

褒める教師に大和は言った。

「たいして難しくもないですよ。」

授業が終わると突然後ろから殴られた。殴ったのはクラスの不良であった。大和は意味もわからず殴られ、そして殴り返し大喧嘩になった。なぜ不良が殴りかかってきたのかしばらくわからなかった。大和はとても傲慢なところがあったのである。

大和は高校に入り自分の傲慢さを隠すように努めた。しかし結局根本の性格は変わっていなかったのである。大和はアーセン社でも多くの人をきっと傷つけたし、これまでもそうであったのであろう。そう思うと合点のいく事も結構あった。

営業をしている若いころ先輩社員たちから陰口をたたかれる事が多かったがそれは彼らが自分を妬んでいるからだと考えていた。”妬むより妬まれる方がはるかにマシだ。”と大和は考え自身の行動を変える事はなかった。

しかし大和にも非があったのであろう。

それに気づくのは随分と時間がたっての事であった。

新役員

椅子

それから約1ヵ月ほどで新たな財務上の期首が訪れた。大きな人事異動はこのタイミングで発表される。今回の辞令には「新役員就任」が含まれていた。

そこには宇月が新役員に就任する事が記載されていた。

いよいよ宇月の念願が叶ったのである。

宇月のこのタイミングでの役員就任は誰にとっても意外であった。確かに宇月は新規事業部をここまで大きくした貢献者であった。そのやり方、自分の子飼いを集めて作り上げた組織に問題はあったものの短時間に100名近い人員を集め、そして新製品「キボウ」を成功させた功労者であった。しかしながら事業部が次のステージへ向け改革が断行されるのではないか。そのための梨田入社ではないかと誰もが思っていただけに宇月の役員就任には多くの社員が驚いた。

大和は宇月の役員就任にやはり驚いたし益々混沌とする事業部の未来に不安を感じた。

大和は出席しなかったが宇月派閥のメンバーで宇月役員就任のパーティーが開かれたらしい。

参加者から聞いた話では、宇月は感極まって涙を見せたらしい。

(つづく)

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