「遠く離れた空の下」第2章 第45話【 戦略の相違 】

カモメ ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

黒馬と梨田はチームキボウを乗っ取るために大和に継続的にプレッシャーをかけ続けていた。しかしながら大和にしか出来ない事も多く大和に代わりうると思って採用した人物も専門性にかけ梨田と大和は対立の中膠着状態となり状況は消耗戦の様相を呈してくる。見かねた人事が介入するがそれは彼らはあくまでも梨田の味方であり大和はすぐに人事を信じなくなる。そのよう中いよいよ最後の決戦がはじまろうとしていた。

戦略の相違

カモメ

キボウの年間戦略を決定する時期がやってきていた。大和は本国と調整しながら日本での戦略を確定させた。それは例年の事とは言え時間のかかる作業であり製品企画担当者にとっては最も重要なタスクの一つであった。大和は遅くまでオフィスに残りパソコンに向かい戦略を作成していく。その過程で本国との会議も多く開催される。時差のため会議は遅い時間に開かれる。この時期は製品企画担当者にとって知力も体力も消耗するタフな時期である。

やっと完成したキボウの製品戦略に大和は満足であった。達成感を感じた。

しかしながら今年はこの先が一番の難関である事を考えると憂鬱になるのであった。

それは梨田の承認である。

上長であり事業部長である梨田の承認とその先の社長・今山の承認を取らない限り戦略案は確定できないのである。

”きっと梨田は俺のつくった戦略を承認はしないだろう。”

大和はそう確信していた。これまでも重要度の低い案件を梨田はことごとく承認せずに大和とチームに嫌がらせに近い行為を行ってきたからである。

事業部の会議で大和は努めて淡々と戦略案を説明した。

梨田は納得しなかった。そして黒馬の提案として大和とは全く反対の案を採用するように命令してきた。

おそらく大和の提案を想定して敢えて反対の案を黒馬に作らせたのであろう。

これには大和も強く反発した。

黒馬の案は場当たり的な戦略であり中長期でキボウの成長を考えると到底容認出来るものではなかった。おそらく数か月はキボウの市場シェアは伸びるかもしれない。しかし収益性に疑問が残り、その戦略を採用する事で将来に渡ってキボウの利益率を損ねる戦略であったのである。

「大和、お前はいつもそうだ。本国を見て顧客を見ていない。だから顧客のためにならないそんな戦略を作るんだ。黒馬の戦略は顧客のための案だ。少しは見習ったらどうだ。」

怒りを通りこして呆れた。

”俺の案を否定したいがためだけによくもこんなでたらめな戦略を作れるものだ。”

あまりの大人げない行為にため息が漏れた。

”そして黒馬戦略を採用してそのついでにチームキボウの責任者を交代させる気なのだな。”

正直馬鹿らしくなってきていた。こんなくだらない事に時間を割くのが本当に馬鹿らしいと思って一気に気持ちが醒めるのを感じるのであった。

とは言え自身が担当してきたキボウに思い入れはあり、こんなくだらない事でキボウを潰すわけにはいかなかった。

大和は本国に連絡しグローバル製品企画の最高責任者であるバタフライと緊急会議を開き黒馬案に関する意見を聞いた。

「そんな戦略は本国としても許す事は出来ない。」

それがバタフライの答えであった。もしも日本がそのような戦略を取ればおそらく日本の動向を注目するアジア各国にもその影響が及びかねないのである。

「私ももちろん反対だが、梨田がこの案を強引に通そうとしている。」

バタフライとは強い信頼関係を築いていた。日本の成功に貢献したのは大和である事を認識していたし、英語が出来ない黒馬の事などバタフライは誰かわからないし、梨田も英語の問題から本国とのコミュニケーションを軽視していたので彼らはあまり本国からは信用されていなかった。

「私から社長の今山に話をする。」

バタフライはそう約束し会議は終了した。

本国の製品責任者は各国支店の社長と同等もしくはそれ以上の力を持っていたので社長・今山の御前会議はすぐに設定された。

”またこのような会議で論戦を交わす事になるとはな。”

大和は前事業部長宇月と発売時の戦略で対立しやはり今山と役員の前でキボウ戦略をプレゼンした事を思い出していた。

しかしあの時と若干の違いを自覚していた。

なぜか以前のように会議の準備に対する意欲が低下しているのを感じたのである。その事に大和自身も驚いたのであった。

会議では黒馬と梨田がプレゼンを行い、その後大和がプレゼンを実施した。その後のディスカッションでもまったく妥協点を見出す事は出来なかった。

今山は終始眼光鋭くディスカッションを聞いていた。

お互いが妥協点を見いだせないまま最後は今山が判断する事となった。

以前宇月と対立した時は会議のあと宇月との関係性が改善した。あまり期待はしていなかったがこの会議を通じて梨田との関係が改善すればいいなと少しだけ大和は考えていた。

今山の判断は大和の提案の採用であった。

今回も会議で大和は勝利した。

しかし以前のような達成感を抱くには至らなかった。

(つづく)

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