「遠く離れた空の下」第2章 – 第4話【新製品キボウ】

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ここまでのあらすじ

大手企業からベンチャー企業へ転職し充実した生活を送る大和であったがそのベンチャー企業は大和が元々勤めていた会社から買収されてしまう。新たな可能性を信じアーセン社へ転職する大和。世界的な有名企業であるアーセン社であったが日本支社の新製品事業部は政治的な争いが満ちていた。思いもよらぬ環境下で仕事をすることになる大和であった。

新製品「キボウ」

半導体

アーセン社新製品事業部は新製品「キボウ」の発売準備・販売をする部署である。

新製品「キボウ」は下記のような特徴をもった商品であった。

精密機器を動かすには精緻な基盤が必要とされる。この基盤の各所にはチェックポイントがありそのチェックポイントが基盤において信号をコントロールしている。このチェックポイントは大きく4つの種類があり、従来販売されている商品は4つのチェックポイントのうちの一つだけ、「ポイントA」だけをカバーしていた。このポイントAは基盤管理において圧倒的に重要な役割をもっていることが証明されており他社が販売する従来品で基盤管理は劇的な向上を達成したのであった。

しかしながら基盤内の電気信号で「ポイントA」を管理していても時間が経つうちに「ポイントA」を逃れる信号が発生し結果基盤に異常をきたし最終的に精密機器は動かなくなってしまうことが判明した。

「キボウ」は「ポイントA」はもちろんのこと、「ポイントB」「ポイントD」とチェックポイント4つのうち3つをカバーすることが証明されており、基盤管理のさらなる向上、そして従来品で「ポイントA」から逃れる信号が入ってしまった基盤でさえ「キボウ」を使うことで精密機器が復活することが期待されていた。

最初から4つすべてのポイントをカバーする製品を作れば解決されそうな問題に思えるかもしれないが、基盤開発には高精度の技術が必要とされ開発には年単位の時間が必要とされた。

「キボウ」は当時の業界は期待の製品であるその効果を期待する声は高かったのは事実である。

一方で完璧な製品というものは世の中にはないものである。この「キボウ」にも欠点は存在した。それはチェックポイントを複数カバーすることで生じる基盤内の「熱」である。抵抗が生じれば熱を発生させてしまう。この「熱」をコントロールするには基盤の観察と適切な対応が必要であり高い技術をもった技師でなければコントロールがむつかしいかもしれないと考えられていた。

そしてアーセン社新製品事業部にはもう一つの新製品「マボロシ」が控えていた。

「マボロシ」も精密機器を管理するための製品であるが基盤ではなくその基盤に送る信号の発信を調整することで基盤のエラーを防ぐことが期待された製品であった。

もともとこの「マボロシ」は「キボウ」よりも数年早く実用化が期待されたいたが、検証実験の結果信号調整はうまくいっていたものの、何故かその効果が基盤の管理にはつながらず原因を究明し改良を加える必要が生じてしまっていた。

世界的には「キボウ」の発売が今年中、「マボロシ」の発売が二年後と想定されており、日本においてはそれぞれ世界から1年遅れでの発売が想定されていたのであった。

「キボウ」製品企画担当者

レース

大和は製品企画として入社し、「キボウ」を担当することになると信じて入社した。

ところが実際には社内ライバルがおり「キボウ」担当者のポジションは競争で勝ち取る必要があることに入社後に気づいたのであった。

大和がアーセンに入社した際に最初に声をかけてくれたのが黒馬(クロマ)であった。黒馬は大和より5つくらい年上であったが同じく前職では製品企画を担当しており、本来であれば発売していたであろう「マボロシ」を担当するために入社をしていたのであった。

黒馬は事業部長・宇月日率いる元ガラム社からでもなく対抗勢力・田中率いるイルーゾ社でもない会社の出社であり、同じく両社出身でない大和は黒馬に親近感を覚えていた。

黒馬は大和とは違い宇月とその取り巻きとは上手くつきあっていた。大和とは違い宇月たちと食事にも行っていたし宇月の自慢話につきあっているようであった。

一方で陰では宇月の無能さに愚痴をこぼすことが多く大和は黒馬と飲みに行っては社内の異常な政治争いの様子を話するのであった。

「マボロシ」の改良に時間を要することから「キボウ」の発売が先に行われることになり、今「キボウ」の担当者を先に決定する必要があった。

社内には他にも「キボウ」の担当を狙う者もいたが実質大和と黒馬の一騎打ちと社内では目されていた。

「キボウ」担当者に任命されることは単なる製品担当者を意味していないことを誰もが知っていた。

「キボウ」が販売されればチームを作る必要がある。つまり部下を持つことになる。部下は社外から採用するかもしれないし、社内から配属されるかもしれない。そしてもしも「マボロシ」の改良が失敗に終わったとすれば事業部のチームは一つでよく、大和か黒馬はどちらかが上司、そして部下の立場になる可能性すらあったのである。

大和は当然「キボウ」を担当したいと考えていた。なぜなら大和は「キボウ」が対応する基盤を扱うスペシャリストであり成功させる自信もあったし、「キボウ」の可能性を信じアーセン社への入社を決めた経緯もあった。

一方で焦りも感じなかった。

「もしもキボウ担当者にならないようならばマボロシまで数年ある。それまでの間にMBAでもとろう。」と考えていた。

社内政治だけではなく「キボウ」をめぐる戦いが始まり大和はそのうねりに巻き込まれていくことになることをこの時点では知る由もなかったのである。

(つづく)

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