「遠く離れた空の下」第2章 第33話【策略】

alien ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

新製品「キボウ」の成功により一時期は役員となった宇月であったが間もなくして相談役となる。これは実質的な引退を意味しすべての権力は梨田に引き継がれた。梨田は宇月が築いてきた営業部の派閥を徹底的に攻撃し宇月派閥メンバーを次々と降格においやり自身が引き抜いて来たメンバーを昇格させた。あまりにも執拗な攻撃の様子を見て大和は梨田に狂気を感じるのであった。

内部告発

ふくろう

バルゼの梨田から逃げるようにアーセン社に転職したものの宇月とも上手くいかず社内で割を食っている社員は梨田の攻撃を避けるために大和を頼って頻回に連絡をしてくるのだった。

大和は徹底して距離をとった。彼らだけでなく梨田とも距離を取るように努めていた。

彼らは多くの情報を大和に提供してくるのであった。そして大和はなぜ梨田が執拗に狂気じみた攻撃を宇月派閥の残党に繰り返すのかを理解した。

梨田は極度な人間不信を抱える人間であった。

梨田は彼がいつも口癖のように唱える「顧客のために」を実践するためにさまざまなプロジェクトを実行した(梨田は顧客のためと思ってやっていたが実際顧客のためであったかどうかはわからない)。その中の一つが社内規定に違反するものであったため梨田はバルゼ社で干されていた。

社内規定違反が発覚したのは「内部告発」によってであった。

強引梨田のやり方に反発を抱くものは相当数いたらしく梨田は気を付けてはいたのだろうが動かぬ証拠を掴まれ内部告発によって第一線から干されていたのである。

それ以降の梨田はとても用心深くなったし、ごく一部の人間の事しか信じなくなった。

そして周りの人間を敵か味方のどちらでしか見る事が出来なくなっていた。

誰にも敵もいれば味方もいる。しかしそれはごく一部であってそのほとんどは敵でも味方でもないのである。梨田は自身の経験から敵か味方でしか人を判断できなくなっていた。

いやむしろ、味方だけを見つけそれ以外は全部敵でありいずれ梨田を攻撃するかもしれないとさえ思っていたのかもしれない。

そして敵とみなした人物が二度と反撃できないように徹底的に攻撃をするのであった。

策略

alien

宇月派閥はほぼ壊滅してしまった。

そして製品企画部門にも変化が訪れようとしていた。

梨田がアーセンに来るまで黒馬は「キボウ」のビジネスに口を出すことは決してなかった。しかしながら宇月派閥が壊滅すると同時に黒馬は会議などで「キボウ」に関してコメントするようになって来たのである。

そのコメントの趣旨はあくまでサポートであったり、黒馬的にはよかれと思っての提案という体裁であった。

しかしそのコメントはチームキボウの反感を買う事になった。

黒馬のコメントは評論家的であり実際に「キボウ」を担当している大和やチームにとってそのコメントは時に腹立たしくもあった。

「大和さんもチームのみなさんもわかっているかとは思いますが市場調査を実施して顧客の声を聴いてみてはどうでしょう。」

と言った具合にコメントしてくるのである。

チームからすると“そんな事はわかっているし黒馬から言われる筋合いはない”となるのであった。理由はチームキボウの設立にまで遡る。

アーセン社にとって新製品「キボウ」は期待の新製品であったしアーセンにとっては新規領域での参入という事もあり重点製品に位置されていて。一方で新規参入領域で市場シェアを獲得するためには本社機能だけでなく最終的に顧客と接する営業員の数を競合企業に近づける必要がある。そのため初期投資は営業員の充足にあてる必要があったのである。大和を常にサポートしてくれた前社長・クロースからの命を受けてチームキボウは少数精鋭を目指し最低限の人員しか配置していなかったのである。

そのため大和をはじめチームキボウは業務に対して徹底した優先順位付けを行っていた。製品企画の業務は多岐に及ぶが多くの時間を社内の業務に費やす必要がある。販売予測・生産物流予測の策定をはじめ経費管理など地味だが時間のかかる業務に多くの時間を費やす必要がある。そして大和はEU本国とのコミュニケーションにも時間を割かなければならなかった。日本はアーセン全社にとって重要なマーケットである事は間違いないがだからと言って本国からの投資を約束されていたわけではない。日本のマーケットのポテンシャルとキボウ成功のストーリーを繰り替えし本国に訴え継続した投資を得る事は骨の折れる仕事なのである。週に何度も設定される夜の会議(時差の関係で会議は夜に開催される事が多い)に参加し他国に負けずに日本をアピールする必要があったのである。大和はその仕事が好きであったが決して楽な仕事ではなかった。

チームも大和も手一杯ではあったが一方で重要顧客の管理もチームキボウの業務の一つであった。しかしながら限られたリソースですべて対応するには限界がありチームキボウは特に重要な顧客のみの対応を行っていた。

しかしそれでもチームキボウは結果を出してきた。

売り上げは世界トップクラスであったし市場シェアも2番手に成長しトップも視野にする事が出来るまでになっていた。

今の働き方でも大和やチームはキボウのさらなる成功を達成できると確信していた。

黒馬の提案は定例のリーダーシップ会議で突然シェアされた。

それはチームキボウにとって大きな影響を与えかねないものであった。

(つづく)

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