「遠く離れた空の下」第2章 – 第17話【USからの知らせ】

メール ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。

アーセン社に転職後、事業部長・宇月との対立の中手にした新製品「キボウ」製品企画担当者のポジションで奮闘する大和。数々の困難を乗り越え遂に念願の大和のチーム、チーム「キボウ」立ち上げに成功する。宇月と対立する派閥のリーダー・田中とその部下・大曲たちと食事を共にした大和は「キボウ」担当者候補をめぐる政治的な争いの話を聞く。そして大曲が警告したのは、大和が信頼する同僚「黒馬に気をつけろ」という言葉であった。

USからの知らせ

メール

USから全世界にメールが発信されたのは、日本の「キボウ」発売があと1ヵ月と迫っているときであった。

「キボウ」には先行する競合品が数製品存在していたのだが、それでも「キボウ」が市場で期待されているのには理由があった。先行品ではカバー出来ない機能・効果を「キボウ」が有している事がこれまで数件報告されていたのである。

この効果は大きな検証試験に則ったものではなかったため、代々的に宣伝に使う事は出来ないものの顧客の誰もがその効果を期待していたし、その効果を副次的にアーセン社は宣伝していた。

この効果がなければ「キボウ」は単なる後発の類似品となってしまい価格競争に打って出るしか方法が見つからない可能性すらあったのである。

USでもこの副次的効果を期待させることで顧客を獲得していた。

一方でこの効果が本当なのかどうか規制当局もフォローしていたためUSで大々的な検証試験を行っていた。日本も一部この試験に参加していた。

そのメールは「検証試験」の結果であった。

”「キボウ」の副次的効果を確認するために行った検証試験の結果、副次的効果は認められず現時点で「キボウ」をその副次的な目的で使用する事は勧められない。”

こう加えられていた。

”一方で先発品と同様の主たる効果においては「キボウ」は直接比較ではないものの最も効率的かつ高い効果を示す事が示唆された。現時点で先発品に優先して「キボウ」を推奨する根拠はないものの高い効果に関しては一定の根拠があると思われる。”

この一報は世界中の「キボウ」製品企画担当者を驚かせた。大和も例外ではなかった。

少しだけ高性能かもしれないが

電子機器

開発のスピードが速く顧客のニーズがダイナミックに変化していく時代の中では、「差別化」ポイントを明確にする事が後発品の成功の鍵である。

今「キボウ」はこの差別化ポイントを失ったのである。

「少しばかり高性能化もしれないが、先発品から切り替える必要があるのだろうか。」

業界紙はすぐに論評を発表した。

USの規制当局はすぐに「キボウ」の副次的効果を宣伝する事を禁じた。

「日本はどうする。」

新社長・今山はすぐに大和に電話をかけて尋ねた。

今山は宇月を通さず大和に頻繁に電話をかけてきた。夜中も祝日も関係なく電話をかけてきたが大和はそれが信頼されている証だと思い嬉しく感じていた。

「すぐに役員会議を開く。それまでに日本の方向性を提案できるように用意しておけ。」

大和の考えはUSと同じであった。100%証明できない効果を宣伝することは顧客の信頼を失墜させることになる、それは長期的にみると「キボウ」そしてアーセン社にとってはネガティブであると考えたからである。

「販売目標も下げましょう。当然投資も減らす必要がありますが。」

大和は宇月に説明した。

「ふざけるな。そんな事できへんに決まっとるやろ。」

宇月は怒鳴った。

”投資を減らす”事は事業部の人員を増やしたいという宇月の野望を邪魔する事であったからである。

宇月は100名以上の部下を持つことで自分も役員になれると信じていたし、

「はよ100人集めて俺も役員にならなあかんねん。」

と恥じる事なく公言していた。(大和はそんな宇月に辟易としていた。)

大和自身も販売目標を下げたくはなかった。領域のトップ製品にするために自身が存在していると信じていたし、今でも勝ち目はあるかもしれないと思っていた。

しかしながら一旦人員を採用して、もしも販売目標に到達出来なかったら採用した社員の将来はどうなるのだろう、宇月はなんて自分勝手なのだという軽蔑の思いの方が強かった。

大和も宇月も折れなかった。

大和は役員会で持論展開する事を宇月に吐き捨てるように伝えたし、宇月はもしも大和が役員会議で持論を展開するようならその場で大和を潰してやると宣言した。

宇月と大和の関係はさらにここで悪化した。

事業部長・宇月の承認を得ぬまま役員会議の日がやってきた。

(つづく)

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