ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
新製品「キボウ」発売直前にUSから報告されたレポートが本国と世界中のアーセン支社を揺るがすことになる。期待された「キボウ」の効果検証が失敗に終わった事で発売プランを再考する必要が出た日本支社においても、販売目標を下げて適正なプランを実行しようとする大和と組織拡大において販売目標を下げる事に反対する事業部長・宇月は再度衝突する。大和が覚悟を決めて臨んだ役員会議で採用されたのは大和の提案であった。
利害関係

利害関係のない人間関係など存在しないのだろう。
利益が一致すれば人は協力しあえるし、一方で利益の齟齬があれば人々はいともたやすく対立する。
特に企業などの組織においては簡単に利害関係による衝突が発生しやすい。
誰もが必死に生きているし昇進したいだろうし、そして更に高収入を得たいと考えている。
宇月は自身の利益に正直な人間であった。
「宇月には恥がないから強い。」
他部署の人間が宇月を評価するときこの言葉をよく聞いた。宇月は自身の利益のため行動し、その結果周りからどう思われても意に介さない。一般的に人々がやりたがらない行動であってもそれが利益になるなら宇月はためらいなく行動を起こせるのだ。生き方の問題だ。そしてある意味宇月はとても強い精神力をもった人間であった。
大和はそんな宇月を尊敬できなかった。しかしもちろん大和にも野望はあった。それは「キボウ」を成功させて「部長」になることであった。大和はまだ中堅社員でありまだまだキャリアは長く高く上り詰めたいと考えていた。まずは部長、そして50歳までには本部長、55歳では最低でも事業部長・役員になることを目標にしていた。
もちろん大和は宇月のように恥がない人間ではなかった。
だが二人の考え方には違いはあるのだろうか。宇月は自分で手を動かして仕事をする事はなくいつも暇そうにしていた一方で大和は猛烈に働いた。ここは確かに大きな違いであったが2人の利益を追求する考え方は同じであったかもしれない。
好転

役員会議のあと大和は国内出張がつづき宇月もそうであったため二人が顔を会わせることは1週間ほどなかった。大和はさすがに次に宇月に会うときどういう顔をして会ったらいいのか悩んでいた。上司である宇月の考えを無視して持論を展開し役員から承認を取った部下である大和に対して宇月はどう接するのであろうか。
その日宇月は遅れて出社してきた。宇月の部屋へ向かうには大和のデスクを通過する。宇月が出社してきた事に気づいた大和は緊張しながらデスクでパソコンを見つめた。
「おぉ、大和。元気か。出張はどうやったんや。上手くいったそうやないか。ありがとな。」
宇月の言葉に大和は驚いた。
「なに鳩が豆鉄砲食らったような顔してんねん。」
と笑顔を見せる宇月に大和は返す言葉がなかった。
驚くべき事が起こった。宇月と大和の関係性は突然好転したのである。
宇月と大和の利害関係(ゴール)がはじめて一致したのである。
確かに販売予測は下げざるをえなかったが、それでも目標を達成すれば組織を拡大できるし役員になれるとおそらく確信した宇月は大和をうまく使う事に切り替えたのであろう。これまで衝突していた大和に対して手のひらをかえし優しく接する事など宇月にとっては何のためらいもないのであった。
そして大和は引き続き「キボウ」を成功させたいと思っていた。その成功の先に自身の昇進もあると信じていた。
宇月と大和の利害関係ははじめて一致し、そして大和がアーセン社に入社以来最も良い関係を宇月と築く事ができたのである。
疑惑

「キボウ」発売の直前であったが大和は宇月とUS出張に向かった。US で「キボウ」に関する緊急会議が開催されたのである。発売直前であわただしいスケジュールではあったが会議を終え帰国前日に宇月と大和はホテルのバーで飲むことになった。思えば大和が宇月と二人きりで飲むのは初めてのことであった。
はっきりとお互いが言ったわけではなかったが大和は宇月に対して誤解していることがたくさんあったことに気づいた。宇月も大和に対してそう感じていただろう。
宇月と大和の間にはたくさんの誤解がありそれが二人を対立に向かわせていただのであった。
疑惑が浮かんだ。
「誰かが俺と宇月の関係が悪化する事を望み、そうなるように動いている。」
確信はなかった。だがそう考えればすべて説明がつくのであった。
大和を狙う第三者が悪意をもって大和と宇月お互いにそれぞれ誤解させるような偽情報を流しているのかもしれない。
「もしそうであれば宇月との関係が好転した今、敵は新たな手を打ってくるかもしれない。」
大和は絶え間なく続く政治的な人間関係を思いため息をつくしかなかった。
(つづく)



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