ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。ご理解ください。
数々の苦難を乗り越えて迎えた新製品「キボウ」の日本での発売は大成功をおさめ大和は社内での発言力を高める事に成功した。またここまで衝突を繰り返してきた事業部長・宇月との間に横たわっていた誤解も解け宇月と大和の関係は大きく改善する。チーム「キボウ」とともに成功を祝う大和であった。
呪文・踊り

「キボウ」発売から半年はとても平和で穏やかな日々が続いた。
大和は宇月と距離を取ることで衝突を起こさないように気を付けていた。いくら関係が改善したとは言え、宇月は自らが手を動かして仕事をすることはほぼ皆無であったし、そのビジネスセンスのなさから大和は宇月を尊敬する事は出来なかった。近づきすぎるとフラストレーションがたまるので大和は常に一定の距離をとって宇月やその派閥と接するようにしていた。
「キボウ」快進撃は続いた。売り上げは順調そのもので、その年のアーセン日本支社全社の売り上げ目標達成に大きく貢献した。そのおかげで事業部に対する投資を得やすくなった事もあり事業部は人員拡大をはじめたところであった。他社から多くの営業マンが中途入社し新製品事業部は賑やかになった。
もちろん仕事は忙しくはあったが結果が出ているときは忙しくても楽しいものである。みなモチベーション高く業務にあたっていた。
事業部の誰もが(おそらく皆そうだとそのころは信じていた)この状況が続くことを願っていた。「キボウ」の成功で営業管理職のメンバーは昇進・昇格を果たすものもいた。
後にわかることになるでのであるが、この時期がキャリアの絶頂であったであろうメンバーもたくさんいた。(彼らには後ほど苦難が待ち受けているのであるがこの頃は誰もそうなることを想像することはできなかった。)彼らが優秀だとは思わなかったが宇月に忠誠を誓いついてきた事が実った瞬間であっただろう。
宇月と大和はヨーロッパのアーセン社本国に招待された。「キボウ」の成功をプレゼンしに行くのである。
宇月と大和は日本で成し遂げた事をプレゼンし参加者から喝さいを受けた。
2日間行われた会議にはアーセン本社の重役や世界主要マーケットの事業部長や「キボウ」製品企画担当者たちが集まっていた。100名以上が世界中から集まる大きな会議であった。
アーセン社はヨーロッパの中でも歴史ある国家である。
2日間の会議が夕方に終わると参加者たちはバスで古城に連れていかれた。そこはワインセラーとレストランになっており盛大なディナーが開催された。歴史あるヨーロッパの国々は大和をいつも惹きつける。
USチームも会議に参加しておりUSチームと再会を祝い両国の成功に乾杯をした。USチームに一時的に参画してしばらく経っていたがまるで昨日の事のように思い出せたし、そしてアーセン社本国でこうして再会できた事がうれしかった。
ディナーが終わりに近づくと記念撮影のため一旦古城の外へ連れていかれ写真撮影が行われた。
写真撮影が終わりレストランへ戻るとテーブルは綺麗に片付けられていてステージも設置されていた。
突然会場が暗転しステージにスポットライトが当たるとそこにはアーセン社会長が立っていた。会長と言ってもまだ50歳くらいで気品を感じる人物であった。貴族の出なのだろう、立ち居振る舞いが洗練されていた。
会長は言った。
「これから皆に呪文をかける。呪文を聞いたものは今夜踊り狂う。“ビンダーテン”。」
ミラーボールが回り始めると参加者は一斉に踊りだした。突っ立っていた大和をUSチームが声をかける。大和も踊りだしているうちに楽しくなってきた。そして踊った。
これが大和にとってアーセン社で最も印象深い思い出となった。今でも目をつぶるとその時のことを思い出す事が出来る。もう15年以上も前の話なのに。
「この先もすべて上手くいく。」
大和は信じて疑わなかった。
会わせたい人がいる

日本に戻ってしばらくして仙台出張があり、この出張には黒馬と同行する事になった。
「キボウ」やまだ発売はされていない「マボロシ」などの製品群を扱う会社が一同に介する展示会が行われたのである。
国内では年に2回大きな展示会が行われ仙台出張は初夏に行われる展示会であった。
「仙台で何かおいしいものでも食べましょう。」
黒馬と約束をしていたので大和は楽しみにしていた。出張直前になり黒馬から連絡が入った。
「大和さんに会わせたい人がいるんです。食事会に連れてきてもいいですか。」
大和は特に断る理由もなかった。
6月の仙台は涼しく過ごしやすかった。そしてそこで大和ははじめて“彼”と会った。
(つづく)



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