「遠く離れた空の下」第2章 – 第14話【チーム「キボウ」】

会議室の椅子 ビジネス全般(海外での働き方含む)

ここまでのあらすじ

この物語はフィクションです。登場人物名や社名などは架空であり実在しません。

アーセン社に転職し新製品事業部期待の新製品「キボウ」製品企画担当者に抜擢された大和であったが事業部長・宇月との関係悪化により部長昇進は見送られることになる。それでも「キボウ」を成功させたいと強いモチベーションを維持する大和に社長・クロースは「キボウ」がすでに発売されたアメリカでオペレーションを学ぶために大和をアメリカへ派遣する。一時的にUSチームに参加した大和は新たな発見の日々と政治的な争いがない環境を知りこのままUSで働きたいとさえ考える。が、大和には日本での「キボウ」成功の責任がある。帰国直後の役員会議で大和はUS で得た知見をもとに「キボウ」発売プランのアップデートを取締役にプレゼンするのであった。

もっとも重要な案件

会議室の椅子

プレゼンは順調に進んでいった。

最後の提案の前に大和は大きく呼吸をして息を整えた。

「これが一番重要な案件なのだ。」

大和は緊張を感じながらもゆっくりと落ち着いた口調で話しはじめた。

「日本でキボウを発売するためには少なくとも私と3名、計4名のチームが必要です。」

USとの市場規模を考えるともう少しチームは大きくあるべきかもしれない。しかし社長クロースから言われた「少数精鋭」を保つためにはチームは最小限にすべきだという前提で大和はチーム案の提案を始めた。

「一人は発売における説明書やマニュアル作成に従事。発売後にも定期的なマニュアルのメンテナンスが必要です。二人目は生産計画・販売計画・経費管理を実行します。三人目は顧客管理を行います。私がそのチームの司令塔としてすべての工程を管理し、かつその結果を取締役会で定期的に報告し本国にレポートします。」

4名ではなく3名でコントロールできないかと言った質問が出たが大きな反論はなかった。

「ではうちの佐藤君を大和君のチームに送ろうと思うがどうか。」

取締役の一人で既存重要製品部門長の加藤からの提案があったが大和はきっぱりと答えた。

「今回の提案は最小人数でのチーム運営となります。従いましてチーム員には高い専門性が求められます。どうか人選は私に一任いただけませんでしょうか。」

佐藤は優秀かもしれない(実は体よく部門から出したいだけかもしれないが)が領域の専門性がない。「キボウ」発売までの時間はあまりなく、専門性のないメンバーを教育して育てる余裕はないと考えた。

宇月に目をやる。宇月はニヤニヤとしていたが何もコメントはしなかった。とにかく部門の人員が増える事は宇月にとっても朗報であったはずだ。

「一任頂けるのなら専門性をもった人員を社外からヘッドハントします。時間はあまりありません。できればここでご決断いただきたい。」

あとで佐藤を推薦した加藤取締役から聞いたがここまではっきりと進言する社員は今までもいなかったらしく、役員はみな驚いたし大和の必死さを感じてくれたとの事であった。

大和はチーム「キボウ」を4名のチームでスタートする事、そして新たな3名を社外から採用する事の承認を得ることに成功したのであった。

チーム「キボウ」

アメフト

人事部門とともにヘッドハンターを通じて採用を開始するとすぐに10名以上の履歴書がそろった。そのうち5名と面談し1名を採用した。

もう1名は大和がアーセン社に来る前に一緒に働いたモゾパス社の部下を採用した。モゾパス社員はクルフト社に買収されたあとすこし居心地の悪さを感じていたらしく、その部下「北山」は

「大和さんとまた働けて光栄です。精一杯頑張ります。」

と言ってくれた。

宇月はこの採用に強烈に介入をしようとしてきた。自身の派閥が元ガラム社(宇月自身もガラム社出身)である事からガラム社から多くの候補者を推薦してきたが大和は片っ端から採用を見送った。

宇月の介入を防ぐ事が出来たのは、「職務要件」の作成に時間をかけたからであった。

宇月がガラム社から自身の派閥になりそうな人員を送り込む事を想定していた大和はその対策としてガラム社社員には埋めれない「要件」を絶対条件に入れその内容で人事本部長の稟議を通していた。宇月自身は細かい仕事はまったくしないし、宇月派閥に大和が作る細かな書類を細部に至ってレビューし宇月に危険信号を送る事が出来る人材はいなかった。大和はそれを知っていた。それでも「職務要件」をレビューさせられた派閥の人間はいたのであろう。そしてその人物は宇月にこっぴどく叱られたのであろう。大和はそれを想像して口元が緩むのであった。

ラストオーダーの時に

和食

それでも宇月がチーム「キボウ」へごり押しして来た人物がいた。

吉田である。

吉田はガラム社で製品企画を担当していた。そして大和は以前クラフト社で少しだけ吉田と仕事をともにしたことがあった。

吉田も却下しようとした大和であったが、宇月は北山の採用を取り消す事を匂わせて大和に迫った。

「大和、お前北山が欲しいんやろ。せやけど俺が最終的にOKせんと彼は入社出来ひんで。ところで吉田はどうや。お前も知っとるやろ彼の事。北山採るなら吉田も採用せえや。」

ここは打算するしかなかった。北山を取るために吉田にも採用通知を送った。

これでチーム「キボウ」は完成したのである。発売まであと半年ほどしかなかった。

そんな中宇月の対抗派閥の長である田中から飲み会の誘いがあった。距離を取りつつも、田中も重要なステークホルダーであることは間違いなく大和は誘いに乗ることにした。

田中とその派閥の飲み会は楽しかった。

仕事の話はなくくだらない話で大いに盛り上がった。久しぶりに楽しい飲み会で大和も来てよかったと思った。

店員がラストオーダーを取りに来て一瞬場が静かになった後に田中が話をはじめた。

それは新製品事業部の内部事情と大和へ対する善意(だと信じたい)の警告であった。

(つづく)

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