ここまでのあらすじ
この物語はフィクションです。登場する人物や社名などはすべて架空の名称です。
新製品「キボウ」の成功により順調に動き始めたかに思えた新製品事業部であったが社長・今山が連れてきた梨田の入社により大きな変化が発生する。事業部長・宇月は役員に就任したものの間もなく相談役となり実質的な引退を余儀なくされた。そして宇月の後任として権力を握った梨田は宇月派閥の解体を図りその目論見はほぼ達成されたようであった。そして大和やチームキボウが所属する本社・製品企画部門にも変化の波が押し寄せようとしていた。
黒馬の提案

「いまやキボウは私たち新製品事業部にとって唯一で重要な製品です。そのキボウの更なる成長のために営業部と大和さんとチームキボウをサポートする部門を作ります。」
突然の黒馬の提案に大和は驚きを隠せなかった。
チームキボウは少数精鋭で人員に限りがあったため本社の機能にとって重要な業務と本国とのコミュニケーション、そして重要顧客のみをサポートしてきた大和とチームにとって黒馬の提案は理にかなっているように見えた。
”チームキボウ”の手が回らない顧客をカバーするために営業をサポートする部門を黒馬は設立したいと言ってきたのだ。
確かに黒馬の提案するチームが出来れば売り上げ拡大は見込めるかもしれないが既に既存のビジネスモデルで成功してきただけに上乗せできる成長は限定的ではないかと大和はすぐに考えた。会議の場でそれをいう事はなかった。そして大和は考えた。
”この提案は複数の側面に関して面倒な事になる。”
すぐに大和はそう考えた。
まず一つ目の面倒さ。それは「一貫性の堅持」に関する問題であった。
キボウに関する製品戦略は大和とチームキボウが立案しそれを営業部に展開していた。しかし黒馬の提案する部隊が出来るとチームキボウの目が届かないところで独自の戦略を立案し活動をはじめる可能性があるのである。製品戦略やブランディングに一貫性は重要である。だからスターバックスやマクドナルドなどの企業は全世界共通のロゴやブランディングを徹底しておりローカライズを許してはいない。果たして一貫性を堅持できるのであろうか。これがまず大和が懸念した事であった。
複製

そしてもう一つ面倒だと思える事があった。いや、こちらは前者などに比べても遥かに面倒なのだ。それは政治的にチームキボウを危険に晒す可能性があったのである。
営業部と製品企画を含む本社部門では圧倒的に人数が違う。アーセン新製品事業部の製品企画を含む本社メンバーはわずか15名程度、それに比べて営業部は120名の営業部員とその管理職を入れると150名近い大きな組織なのである。
発言力に関しては本社メンバーの方が大きいかもしれないが圧倒的な数の違いは如何ともしがたく、どうしても営業の評判をある程度は維持する必要があった。
実際大和やチームキボウは優先度の高い顧客しかカバーしていなかった。これは営業部員の数で言えば約10名程度の営業部員の事しかサポートできていない事を意味していた。営業からはサポート依頼が常に届いたが大和は優先順位の高い事を放置するわけにはいかないという理由でそのサポートを断ってきた。
”そもそも顧客対応は営業の仕事だしそのために120名もいる。その上司だっている。”
そうも考えていた。実際本社業務は時間を要する事が多いのである。そしてそれは大和やチームにしかできない仕事なのであった。
一方で営業からすると本社の仕事を理解する事は出来ない。営業から見ればいかに現場を訪れて自分たちをサポートしてくれるかでしか本社の貢献を判断できないのである。
実際大和も若いころ営業職をやっており「本社の人たちは毎日会社でデスクワークだけして楽に違いない」などと考えていた。
営業が本社の事をわからないのは仕方がない事なのである。
しかしだ。もし黒馬の組織が実際に設立されたとして今までチームキボウがサポート出来なかった顧客や営業部員をカバーし始めると何が起こるのであろうか。
その結果は明らかであった。
営業は黒馬が提案する新チームに感謝し営業からの評判はあがるであろう。
そしてチームキボウの評判はどうなるのだろうか。
”彼らは私たちをサポートしてくれない。お高く留まっている。”
などとの批評を生むであろう。
この複製のような組織は絶対的に危険なのである。
梨田は実際に宇月派を壊滅に追い込むために営業部員の声を使った。もしも同じ手法で梨田がチームキボウや大和を攻撃してくるとすれば。
大和は想像して恐怖を感じた。
”どうにかしてこの組織は設立前に潰す必要がある。”
大和は意を決するのであった。
(つづく)


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