ここまでのあらすじ
新卒で入社し営業から本社企画部門へ異動した大和であったが担当製品のライフサイクルが終焉を迎えようとした事で仕事へのやりがいを失ってしまう。長年勤めた業界大手クルフト社を辞めはじめての転職を決意する。転職先モゾパス社はクルフト社とは比べ物にならないくらいの小さな企業で日本支社も立ち上がったばかりであった。はじめてのピープルマネージャーにも就任し決意新たにモゾパス社で仕事を開始する大和であった。
勘違い
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はじめての転職に不安はつきものである。実際に大和の周りの多くの同僚や先輩たちが転職していくのを見ていたが成功出来たのは半数にも満たなかった。多くは最初は好待遇で迎え入れられるのだがいずれその役職を下げたり部署変えに会いどうみても失敗に見える人が多かった。クルフト社へも多くの中途社員が前社での輝かしい実績を掲げて入社して来た。そしてやはり成功する人は少なかった。
一方で大和には成功するという根拠のない自信があった。
それは大和が「小さな会社の社員は大きな社員の会社の社員の能力より劣っているはずだ。」と考えていたからである。「大手クルフト社の日本法人本社で活躍した自分がこのベンチャー企業で失敗するはずはない。」とタカをくくっていたのである。
しかし大和は自分の考えが単なる勘違いであったことにすぐ気づくことになる。
大企業には社員が多く業務はサイロ化し守備範囲・担当業務の範囲はどうしても狭くなる。もちろん担当業務の幅が狭いぶんその分野においてはベンチャー企業の社員より優れているのだが、ベンチャー企業は社員が少なく広範囲に及ぶ業務を求められた。大和は自分が企画部門において一部分の専門性しか持っていない事に気が付く事となった。また少人数であるが故に関連業務も担当する必要があった。実際に製品企画だけでなく、財務や事業開発のような業務にも携わる事となった。
はじめての仕事が多いのだが前任者がいないため自分でその技術を習得せねばならず勤務前や勤務後に専門書に向かう時間を増やさざると得ない日々が続いた。
大和だけでなくはじめての部下達も同様に必死に勉強し働いた。
深夜まで共にデスクに向い一つのタスクをこなす度に共感が生まれ強いチームとなっていった。
思えばクルフト社ではチーム内での対立が頻発した。あからさまに関係が悪い同僚たちもいたし、陰ではよく中傷を耳にした。大和もやはり嫌いな同僚もいたし、あからさまに敵意を向けられたこともあった。
激務というのは健全ではないがチームを強くする。お互いがけなしあう暇もなく、お互いが努力している事を知っている。上司部下の関係を超えて自然と役割分担が出来上がり業務効率をあげ結果を出していくたびにチームの関係は強固になっていった。
実際に入社して1年後、大和の担当製品の一つであった「ダラX」に対して内資大手企業が対抗品を発売するという大きな危機も大和とチームは一丸となって乗り切り対抗品の浸食を最低限に抑えモゾパス社本国から表彰を受ける事となった。
大和がモゾパスで最初に達成した大きな成功であった。
元サントラスト社員
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もちろんモゾパスが楽園であるわけではなかった。
仕事はやりがいがあり本国から「ダラX」で表彰まで受けた大和であったが社内の関係性には苦労した。
チームはとてもまとまっていた。メンバーはそれぞれ違うバックグラウンドを持って入社しお互いが助け合い役割分担しながら業務をこなしていた。
一方でモゾパス社の社員の半数以上がサントラスト社元社員であることを知ったのは入社後であった。
社長を務める町田は切れ者であった。役員会議などに企画を持ち込み会議に臨むたびにその頭の回転の速さに驚愕した。
町田は裕福な家庭で育ち一流大学を卒業後フリーターをしながら世界を周りその後サントラスト社に入社、あっと言う間に頭角を示し企画本部長を経た後モゾパス社が日本に進出する際に転職し社長となった。
事業部長の告川をはじめモゾパス社の社員の多くは町田を尊敬してついてきた、もしくは引き抜かれた社員で構成されていた。
特に告川は絶対的に町田を崇拝していて、その様子を見るたびに大和は何とも言えない気持ち悪さを感じていた。
モゾパス社の役員は元サントラスト社員で構成されており企画を通すためには彼らの同意を事前に得る必要があった。
飲みに行くと必ずと言っていいほどサントラスト社の昔話になったし、町田の天才ぶりが語られた。
崇拝の仕方に違和感を感じる大和ではあったが町田に対して尊敬の念を持っていた大和はそういった話は黙ってうなずきながら聞く事が多かった。
チームの関係性はとてもよかったし、事業部長の告川とも決して悪い関係ではなかった。告川は企画に関する案件に口出しをしてくることもあり手を焼く事もあったが、チームをして成功を収めた「ダラX」は好調で世界一の売り上げを保持していたこともあり、製品ラインアップである「ダラZ」も含めて快進撃を続けていた。
「このまま会社とともに自分成長しチームメンバーも昇進させていこう。」
激務な日々を支えていたのはモゾパス社の成長を信じていたからであった。
そんな中一つの事件が起こったのは大和が転職後1年半してからの事であった。
(つづく)
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