ここまでのあらすじ
業界大手クルフト社を去りベンチャー企業モゾパス社へ転職した大和。小さな会社だから仕事はたいしたことがないだろうとタカをくくっていたのだが実際の業務は想像とは違い、小さな会社だからこそ守備範囲が広くスピード感を求められた。またベンチャー企業特有の経営の不安定もあり苦労する大和であったがチームを共に努力をかさね「ダラX」を成功させグルーバルで表彰を受ける。仕事にも慣れチームの結束も固くすべてが順調だと思った矢先に一本のニュースでモゾパス社は大混乱に突入する。
シェーゴAir リコール
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モゾパス社最大の武器はその技術力の高さであった。他のベンチャー企業と同様モゾパスも技術力の高さを活かした製品開発により生み出された特殊で替えの効かない製品を主力ラインアップに据えていた。
「シェーゴAir」はそれまでになかった特殊な技術を駆使して開発された製品であり「シェーゴAir」なしでは動かない巨大設備が世界中に点在しており(その数は少ない)販売数は少ないものの需要は高く価格も高く競合がないため営業やプロモーションに投資をする必要が最小限で済むため結果高利益を生み出し、その利益がモゾパス社を支えていた。
このような製品は特長として短い期間で(数か月)で交換が必要であるためモゾパス社製造部門は常に「シェーゴAir」の生産を優先してきた。需要拡大に伴い自社工場のみでは対応できなくなりつつあり新たな工場をヨーロッパに建設を開始したばかりであった。
そのニュースは最初は噂として大和の耳に届いた。
「どうやらシェーゴAirの在庫が厳しくなっていて発注先に技術担当者が訪れ交換ではなく修理で対応しているらしい。」
そんな噂がささやかれるようになった。実際にシェーゴAir担当部署は出張で社を空ける事が多くなった。
ニュースは突然金曜日の夕方に全社員に連絡された。
「シェーゴAir」リコール
が発表されたのである。
幸いリコールされたのはその年の1月に生産された製品だけであり次の製品は4月に世界各国に入荷されるとの事であった。
社長の町田からも「心配するな。次の入荷が来るまで耐えれば事態は収拾する。」と伝えられた。
4月入荷品
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幸い大和が所属していた「新製品事業部」には影響はなかった。「新製品事業部」は「シェーゴAir」頼りの経営リスクを分散させるためにモゾパスが比較的マスマーケット(より需要のある市場)へ参入するための新製品の発売を準備しており、大和とチームが表彰を受けた「ダラX」も好調であったため事業部に全体に不穏な危機感が満ちる事はなく済んだ。
一方でシェーゴAir部門は混乱していた。在庫がほぼない状況で発注がきた設備と連絡を取り製品交換ではなく修理対応や一部の部品だけを交換する交渉を強いられた。どうしても交換が必要な場合には本国承認をとったのちにはじめて販売が出来るような状態であった。
代替品がない事で高価格を設定していただけにモゾパス社に対する不満を募らせていた得意先も従来から存在していたためシェーゴAir部門は現場で叱責されることも少なくなかった。
「4月品が入ればどうにかなる。それまでの我慢だ。」と担当者は頭を下げ続けた。
ところが3月にさらに悪いニュースが社内に連絡された。
「3月から本国工場に査察が入る。工場のクオリティが保証されるまで4月品の発送はストップする。」というものであった。
このニュースがモゾパスに致命傷を与える事となった。
技術公開
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代替品のないシェーゴAirの欠品は各国の政府関係者の間でも問題となった。モゾパス社は社会的責任からそれまで独占的に有していたシェーゴAirの技術を業界大手に公開せざるを得ない状況に追い込まれた。
これはモゾパス社にとってかなり苦しい決断であった。一旦技術を公開してしまえば大手企業はすぐに類似品を開発し1年後には市場に類似品が参入する事になる。実際に大手企業数社が開発に名乗りを上げた。そして一旦大手が参入してきてしまった場合、モゾパス社のシェーゴAirの生産が正常化したとしてもこれまでのように高価格をつける事も出来ず、また競争が発生する事から営業・プロモーション経費をあげる必要が出てくるためこれまでのように「高利少売」ビジネスモデルが崩壊する事を意味していた。かつてMBAの教本に掲載されたこともあるモゾパス社のビジネスモデルはこの時点で崩壊してしまったのである。
ベンチャー企業にとって生命線は技術力だけではない。「投資」である。
その技術料の高さから投資家にとって魅力的であったモゾパス社はここ数か月であっと言う間に評価を落としてしまったのである。株価は乱降下しモゾパス社は経営の大ナタを振るう必要性に迫られたのであった。
「本社が溜池Dビルに移ってから良くない事が続いている。」
大和には一人だけクラフト同期入社の友人で大和より先にモゾパスに転職した友人がいた。その友人が飲みに行くと言っていた言葉を思い出した。
人気の斬新でスタイリッシュな溜池Dビルを見上げながら大和はモゾパス社と自身の将来に不安を感じるのであった。
(つづく)
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